高濱コラム 2006年 5月号

ある教室長の報告です。その伸び悩んでいる4年生の男の子は、素頭は良いことは授業中の反応で分かるのだが、何が大きな問題かといって、とにかく主体性に欠ける。親にやらされているからやっているという気持ちがとても強い。お母さんは熱心な方なのだが、愛情と裏腹の結果になってしまっている。その象徴的な場面を見たんです。帰りにその子が挨拶できずにもじもじして黙っていたら、母曰く「サヨナラでしょ」。これでは駄目ですよね。「何て言うんだっけ」なら分かるけれども。

経験も積んだ実力派だけに、急所を見ているなと感心したのですが、このことは古くからある問題です。確かヴィゴツキーだったと思いますが、大人が教えなければいけない部分と、子どもに考えさせなければならない部分の区分けは、難しい課題である。が、母たちが子の指導をする場面を観察したところ、教育のない母は、すぐに答えを言おうとし、教育のある母は示唆して気づかせようとした。そんな話です。

低学年の母たちと過ごして13年。現代日本の母親像は、まあまあ示唆するような教え方から入ろうとはするけれども、理解の遅さや何度も同じ間違いをすることなどに、途中から切れ始めて、感情的になって台無しになってしまう。そうやって上の子は、やりはするけれど、本当は勉強はあまり好きでない子に育ち、叱られる兄姉を見て、二番目は比較的要領よく育ち、勉強面での勝者になる。個々には様々ですが、こんなところが平均値でしょう。つまり「小学生の母として初心者時代、つまり長子の学習指導」は、よほど心してかかった方が良いですよ、というのが、最近の私のアドバイスです。

「宿題やったの宿題は!」と頭ごなしに、言われる関係になった子で、大きく伸びた子を見たことはありません。何をすべきかの「答え」を言われている上に、「やれ」という押しつけモードで提示されて、やる気の伸びる子など、たったの一人もいないからです。案外、自分が自分の親にやられたことを、再現しているだけかもしれません。

花まる漢字検定に向けた、漢字の反復練習や、日々の宿題について、成功してきた保護者は、一様に「習慣」として組み込ませることに、初期に成功した方々です。一言で言えば、「やるもんだ」という納得をさせることに成功したと言えるでしょう。それには、押しつけともニュアンスの違う、「毅然たる態度」がポイントになります。きっぱりと、明るく、「さ、7時半だから、宿題タイムだね」という風に。

やらないという気持ちを起こさせない迷いない姿勢。どうすればやらずに済むかという、取り引きの余地の全くない態度。聞かれたら、「だって、小学生だもん」と、プライドをくすぐってください。それでも四の五の言うとしたら、そもそも日々の関係の中で甘やかしてきた証拠なのですが、「宿題をやらないという選択肢は、無いのよ、あなたの将来をまじめに考えたら」と、ピシャリと言い切ってください。気迫勝負です。加えて言うと、4月はチャンスの時期。すでに失敗して3年生になった子にも、「だって、3年生だもん」で、動きが変わった子もいます。トライしてみてください。

習慣に変われば、歯磨きと同じ日常になり、問題ではなくなります。「最初が肝心」です。本当に子どもたちの将来のために、迷いなき構えでお願いいたします。また、困ったことがあったら、どんな小さなことでも、教室長にご相談ください。

花まる学習会代表 高濱正伸