高濱コラム 2006年 7月号

7月。サマースクールまっしぐらの季節がやってきました。今年の電話受付は、考慮した上で、電話の本数も増やしコースごとに受付時間を細分するなど工夫したのですが、予想を大幅に上回る申し込みがあり、ほとんどのコースがキャンセル待ちになり、皆様にはご迷惑をおかけしました。申し訳ありませんでした。来年は、従来の延長にはない、全く新しいシステムに変更すべく、すでに検討を開始しました。また、定員から溢れてしまった方にも、何とか打開策はないか、複数の案で動いております。ご了承のほど、お願い申し上げます。

さて、昨年の尾瀬のコースでは、出発の集合場所で、見送りの方々の空気がさっと変わりました。リーダーとして挨拶したKさんが、聾唖の女性だったからです。アルバイトに申し込みがあった直後には、安全面等考慮して断ろうかなとも思ったのですが、面接で会ったときの明るく爽やかな感じから、この人との寝泊りならば、子どもたちに、良い影響がありそうだと直観して採用しました。

耳の聞こえない人との接触は、全く無い子の方が多いですから、出発直後は、後ろや横から話しかけても返答の無いことに、少々ギクシャクした雰囲気もありました。しかし、彼女の方から「聞こえない」という事実を、懸命に伝え、手話で表現する歌を教えてくれるうちに、打ち解けてきました。

そうして、夜にKさんと担当のリーダーが、各部屋を回ったときのこと。どこでどう子どもたちが連絡しあったのか、または自然発生的なものなのか、どの部屋でも、子どもたちが並んで、こっそり練習した手話の歌を、真剣な瞳で披露してくれたそうです。彼女も、これは本当に嬉しかったと、終了後のミーティングで語っていました。二日目、三日目はどんどん近くなり、「私の名前は○○です」というような表現を、習いに来る子が大勢いました。

それにしても、感心したのは、Kさんのご両親です。ハンデをハンデと感じさせないほどに、自信のある人に育てたご両親は素晴らしいと思います。健常であっても、様々なチャレンジに対し、「どうせ自分には無理だろう」と尻込みする人が多いのに、耳が聞こえないのに、堂々と申し込んでくる前向きな精神には、感動します。「どんなに大変そうでもプラス思考でがんばれ」と、口でどれだけ言うよりも、彼女の行動の一つひとつは、子どもたちを揺り動かし、かけがえの無い勇気を与えてくれたと思います。

苦手の無い人はいません。コンプレックスの無い人もいません。しかし、どんなときも、どんな水準の「できないこと」や「不得意」を抱えていたとしても、くさったりスネたりせず、明るく堂々と胸を張って生きていく人に、育てたい。そんなことを考えさせてくれた出会いでした。

花まる学習会代表 高濱正伸