高濱コラム 2007年 9月号

子どもたちの輝く表情と大自然に囲まれて、最高に面白い映画が終わりなく続くような、あるいは絵本の中に入り込んだような気がする、サマースクール・勉強合宿の一ヶ月が、終わりました。

今年のサマースクールは、体験部の若者たちに完全にまかせて2年目。最初から最後まで、なるだけ口を挟まずにいました。何でも自分でやりたい私には苦行でしたが、10年後20年後を考えると、自分自身がピンピンしているときにこそ継承しておかなければ、発展が考えられないからです。この2年間で、彼等はプロの顔になったし、成長したと思います。

息子にとっても、達成感あるスクールになりました。参加3年目にして、幼稚園のお泊り保育を入れると4年目にして、初めてみんなと同じプログラムを、全部こなすことができたのです。年長のときは、母と離れたことへの抗議のように、つきそいの私のごはんはおろか水も受け付けず、半日で帰宅。1年生・2年生のときも、熱発したりもどしたりして、部屋で寝ている時間が多かったのでした。

それができたのは、昨秋から春にかけての入院の経験も大きいと思いますが、周りの子の働きかけにも恵まれたことは否めません。言葉もしゃべれず、車椅子に座ったきりなのですが、ある男の子がしばらく横で眺めていて「そうか、手は動かせるんだな。じゃあ、手でできる仕事をやってもらおう」と言って、刈り取ってきた草をヒモで束ねる役割をもらいました。目に強い意思をもって、ヒモをひっぱる姿は印象的でした。

他にも、刈り取った草を基地作りの現場まで運ぶ作業を手伝うこともできて、今までになく「参加した」と感じられたのだと思います。実は今回、幼なじみで毎回頼りにしてきた友人が、病気で直前キャンセルになり、どうなることかと心配したのですが、「去年も同じコースだったんだよ」と言いながら、ずっとそばについてくれる女の子がいたりして、周りの子どもたちのサポートのおかげで、やり通すことができました。

考えてみれば、なぞぺーの生い立ちからしてそうですが、数理的思考力の優秀と超優秀の差が何なのかというような追求をしてきた私ですが、この子が生まれてくれたおかげで、どんなレベルでも、成長してくれると、しみじみと嬉しいものだという親の心を、実感することができました。おそらく、参加1300人中、もっとも低いハードルだったのだと思いますが、完走という彼にとっては大きな課題を克服でき、よかったなあと思います。

参加してくれたみんなが、親もとを離れた濃い経験の中で、小さくとも自分なりのステップアップをし、たくましさにおいて一歩前進してくれていたら、こんなに嬉しいことはありません。

花まる学習会代表 高濱正伸