高濱コラム 『別れ そして新しい旅立ち』

『別れ そして新しい旅立ち』2012年4月

K君は1年生。お母さんいわく「怒るポイントが人と違う」ために、入会したての一学期は、本当にささいなことで爆発してしまうのでした。そうなると 打つ手なく、教科書も投げ散らかしてしまうような状態になり、時間が過ぎて、穏やかな彼に戻ってくれるのを待つしかないのでした。もちろんだからといっ て、見捨てるわけはありません。というよりも、十分にこちらの守備範囲内ですし、不安を感じているお母さんに「大丈夫ですよ、必ず成長とともに落ち着きます」と言い切ったものです。事実、徐々に、確実に、彼は自分をコントロールしようと意識できるようになってきました。

ほぼ一年が経った3月の最初の授業の日。その幼稚園教室で準備をしていると、窓の外、園庭をはさんで50メートルくらい向こうの園門に、K君の姿を発見しました。今日は一番に来たんだなと眺めていると、やけにふさぎこんだ様子です。うつむいて、入ってきては出て行く、を繰り返しています。ちょうどすれ違った幼稚園の業者さんとおぼしき男性が「大丈夫かな?」とでもいうように、振り返っていました。

大声で「K!」と呼びかけると、私を見つけて何か覚悟を決めたようにバッグから白い四角いものを取り出しました。そして、その白いものを私に向かって差し出す仕草のまま、まっすぐにこちらに歩いてきました。それは封筒でした。

「どうしたの?」と聞くと、涙目で「残念な手紙なんだ…」と一言。受け取ったのは、大阪に転勤になるために退会する旨の届けでした。私が目を通している間、K君はずっと私の二の腕をギュッと痛いくらいに握りしめていました。「そうか、残念だね…。でもK、もしかしたら大阪でも花まるを始められる日だって来るかもしれないよ」と言うと、驚いた目になり、首をかしげてこう言いました。「そしたら、また会える?」

彼という存在と出会えて、かかわる時間をたくさん過ごせたこと、この数分間の二人だけの忘れられない時間をくれたこと、最高に幸せな気持ちにさせてくれたことに感謝をこめて、ギュッと抱きしめました。どんな二人にも必ず別れの日は来ますが、K君とのそれは、素晴らしい別れでした。

さて、桜散れば新緑芽吹く。新学期が始まりました。あちこちで、教室長・講師・子どもたち・お母さまお父さま方、多くの出会いがありました。花まる学習会も二十年目に突入です。この新しい出会いを幸せにつなげられるように、「花まるに入ってよかったあ」と後々言ってもらえる ように、より本質的な方角に向かって、研ぎ澄まして行きたいと思っています。

一つの例は、サマースクールの参加の形。お友だちと一緒の班希望という申し込み形式はやめて、全員単独参加に変更します。 もともとの友だちと楽しい思い出を作るのも、素敵なことなのですが、花まるが野外体験で目指すものは教育です。不自由な環境に敢えて踏み出し、自分なりの課題と決めた火起こしや飛び込みなどでの成功体験を経て、自信をつけること。初めて会う人たちと喧嘩も仲直りも繰り返しながら、友だちになり、一緒だった から楽しかったと感じて帰ってもらうこと。

そういう本質を追究すると、全員一人参加がもっともふさわしいと考えたのです。低学年の子のお母さんには、ほろ苦い提案かもしれませんが、現場の経験では、単独参加で一年目泣いてしまっても、二三年目に笑って帰ることができたような子たちは、人としての「強さ」を増したと感じています。より本物の花まるに進化するために、ご理解をお願いします。