高濱コラム 『学力より大切なもの』

『学力より大切なもの』2012年12月

 一年が終わろうとしています。今年は「お母さんの安心のためには何ができるかなあ」と考え続けていた一年だったように思います。もちろんそれは、学力・心・社会的な力を問わず、子どもたちの健やかな成長を考えたときに、ホッとして大らかな母さんたちが子育てに成功しているという経験則があるからです。通じ合えるママ友、聴き上手の夫、上機嫌になれるアイドル(嵐や韓流)、外に出て仕事をすること…。今までも様々あったのですが、今年新たなカードを発見することができました。

 5月の「スカイツリー探偵団」。いつものように変装したのですが、参加した保護者を装う(懇意の家庭に頼んでニセパパとして3人で参加)というアイデアが良すぎて、なかなか見破られませんでした。おかげで、すぐ近くでゲームに没頭する家庭を観察することができたのです。もともと「父親との遊びが少なかった子は、青年期に心の病に陥る確率が高い」という、相談部門での発見がもととなって始まった企画なのですが、ずっと父と子にばかり注目していました。しかし、観察する中で「アッ!」と思ったのです。それは、侃々愕々どっちへ行くべきだと議論し熱中している父と子の姿を横で眺めているお母さんが、何とも嬉しそうな表情だったからです。遊んでくれる父像は、母の安心にこそ直結していたのです。

 10月の「駒沢公園探偵団」。ラクロスの大学対抗の声援が響き渡る木立の中、ジョギングする人、散歩する笑顔の家族、アクロバチックな演技を練習しているチアガールたち、そして抜けるような青空。素晴らしい空間でした。私は若い仲間とストリートミュージシャンに変装しました。今回は目立ったこともあって、よく見つけられました。見つかっても楽しいし、通り過ぎても「勝った!」と嬉しくなったりしているのですが、せっかく時間もあるからと、シャイニングハーツパーティで歌える家族の歌を作っていました。

 すると、通りがかった一般の家族がいました。1歳半くらいの男の子が泣いてむずがって、どうしていいか分からないお母さん、なすすべなく空のベビーカーを押してついてくる父という図。お母さんが「ほら、ラララだって」と私たちの歌に関心を向けようとしていたので、「ヨーシ、君のために歌うよ」と宣言して、一曲通して歌ったのです。男の子も聴き入っていましたが、お母さん自身もいい笑顔になってきて、無事泣きやんだこともあってフンワリと幸せそうな表情になったのです。

 「あ、そうか、音楽も良いんだ!」灯台もと暗し、こんなに自分は色んな曲で癒され救われてきた音楽好きなのに、見忘れていた。そう言えば、「ビートルズを歌おう」のイベントや、我がバンドKARINBAの親子で歌おう企画でも、母さんたち良い笑顔だったじゃないか。

 思いついたらすぐ行動。中野サンプラザの講演会では、冒険ですが、講演のあとにライブをやりました。お母さんたちに捧げる気持ちを込めて4曲。スタッフには急遽の企画で迷惑をかけましたが、やってよかったです。見送りのとき、お母さま方に華やぎを感じましたし、感想文には、曲に感動したという声が溢れていました。同じ応援メッセージでも、講演=理屈・理論よりも、音楽の方が深いところで心を揺さぶったのかもしれません。

 サマースクールなど子どもたちとのイベントでは、いつも歌ってきました。それは学力より大切なもの、人としての魅力を考えたときに、笑いや音楽は、大黒柱になるくらい大きなものだと信じてきたからです。しかし、これからは、お母さんたちの前でも歌って行こうと誓ったのでした。

 私自身と息子が典型ですが、音楽は健常の人と障がいの子たちを結ぶ交流のツールであり絆にもなります。シャイニングハーツパーティにはぜひ来てほしいですし、新しい年には、「花まるの人って社員も会員家族も良く歌ってるよねえ」と言われるくらい、色々と仕掛けていこうかなと考えています。よいお年をお迎えください。

花まる学習会代表 高濱正伸