西郡コラム 『子どもたちへの講演4』

『子どもたちへの講演4』2013年12月

想像力を鍛えるために、いいものをたくさん読んでください、見てください、聞いてください、触ってください、心を揺さぶられてください、感動してください。前回、こういう話をしました。見てください、聞いてください、触ってください、そうですね、これらは、五感。私たちが得る情報はすべて五感を通じてです。五感とは、「視覚」(光の刺激を受けて生じる感覚)、「聴覚」(音を感じる感覚)、「味覚」(味を感じる感覚)、「嗅覚」(においを感じる感覚)、「触覚」(ものをふれたときに感じる感覚)のことです。五感を鍛えるのは、学習の土台にもなります。

視覚は、形、色、明暗などを感じます。それだけではなく、運動するときの感覚、空間を知るときにも必要です。よく見えるというのは、視力がいいということではありません。視力がいいに越したことはないのですが、中身を見るということです。内面を見るということです。前回お話しした想像力をともなう見える力です。

音は空気の振動を通して伝わります。それを受け止めるのが聴覚です。音の強さ、音の高さ、音色、音の出ている方向、リズム、ことばも認識する能力です。運動するときの感覚、空間を知るときにも必要です。「人の話を聞きなさい」とよく言われる人も多いのではないでしょうか。音が聞こえるだけではなく、意味が分からないといけないのです。何を言わんとしているのかを聞き取れるということ。要約、何を言いたいのか、ポイントは何なのかをともなう聞く力です。ちなみに「聞く」と「聴く」の違いが分かりますか。ふつう「きく」というときは「聞く」を使います。「名曲を聴く」という使い方をするように、心をより働かせてきく場合が「聴く」です。

味覚には、甘い、辛い、酸っぱい、苦い、うまいの基本的な感覚があります。サマースクールの食事のとき、ソースをたっぷりとかけてコロッケを食べる人がいました。そのものの味がソースの濃さで分からなくなってくる。食事は健康の基本です。折角、味覚と素晴らしい感覚を持っているわけですから、その味をかみしめましょう。何かを食べるときは、味覚だけ働くわけではありません。見た目がおいしそう、視覚です。いい匂い、嗅覚です。どこかでその味を覚えていれば、記憶も働きます。また、味わう、という言葉は、ものを食べるときだけではなく、面白味を感じたり、経験したりするときにも使います。

嗅覚は、においをかぐ感覚のことです。吸気中の物質を鼻の奥で感じて、脳に伝えています。たとえば、風味という言い方をします。ものを食べるとき、飲むとき、先ほどの味覚が働きますが、香りを感じるのは嗅覚です。いい匂いで気持ちが晴れるときがあります。「何かにおう」というとき、実際に何かがにおってくるのではなく、何かあるぞ、と察するときに使います。視覚、聴覚とともに空気感を感じる、読むときにも使います。

手で触ったときに固い、柔らかい、ヌルヌルしている、フワフワしているといった感触を得るのが触覚です。もちろん手だけではありません。肌で感じるといいますが、これも触覚の一つ、皮膚感覚。温かい、冷たい、痛いなどを感じる感覚です。また、皮膚だけではなく、胃腸、筋肉などでも感じます。いろんなものに触れてその感触を得るわけです。

さて、こういった感覚を皆さんは持っている。この感覚でいろんな世界を知る、感じるわけです。遊びが、特に低学年にとって大切だと、だれもが言います。それは、この感覚を鍛えているからです。8歳までぐらいに脳の80%がつくられ、10歳まででほぼ出来上がる。人それぞれが持っている感覚器(目、耳、鼻、口、皮膚)から刺激を受けて、神経をつくり、脳みそをつくっているのです。興味、関心、好奇心を持って、いろんなものを見る、聞く、なめる、かぐ、触る、遊びの中で脳みそを活性化させているわけです。バランス感覚、運動感覚を伸ばしているのです。形として見える学習だけではなく、遊びの中で目に見えないアンテナという感覚を伸ばしています。

実際に皆さんが行っている学習にも五感を使っています。何かを学ぶというのは、まず、受け取ることから始まります。受け取るのは五感を使ってです。見る、聞く、におう、味わう、触るといった感覚で捉えています。例えば、何かを覚えるとしましょう。見て覚えます。手で書いて覚えます。そして、音を入れます。五感を使えば使うほど、暗記するときに印象が強くなり覚えやすくなります。そして、学ぶことで、五感から刺激を受け、皆さんの感性=ものごとを心に深く感じる働きを磨いているのです。

目が見えない、全盲の方もいます。しかし、その方たちは、強い心で他の「聴覚」「嗅覚」「味覚」「触覚」をより磨きます。ないものを嘆かない、今ある自分の能力を最大限に伸ばそうとします。何かに劣っているからといって比べることも、嘆くことも、羨望することも要りません。自分の今あるものを磨くのです。今ある五感から刺激を受け、皆さんの感性を豊かにすることです。

人生の長さは人それぞれ、寿命はあります。限られた生を楽しむには、たくさん感じること。たくさん感じることは良いことばかりではありません。苦しみ、孤独をともなうこともあります。知らない方がいいこともあります。しかし、自分が感じたものは、真実です。すべて引き受けてください。良いも悪いも。いろんなものを感じ取るから、中身の濃い人生が送れます。

何でもいい、感じること、それをすべて引き受け、楽しむ。何かを感じることは生きているという証です。豊かな感性は、日々の生活を楽しくします。