講演会実況中継 『家庭の会話で力を伸ばす』

『家庭の会話で力を伸ばす』2013年7月

Q
1年生の男の子です。小学校に入学してから、授業で発表することが苦手だと言いだして心配です。自分の考えをアウトプットできるようになるために、親としてどういったことを家庭でしてあげれば良いですか。
 

A
これは1年生なんて苦手なのは当たり前ですよね。そりゃあ人前に出て話すことなんて、もう5、6年でもドッキンドッキンして言いたいことの半分も言えないっていうのが、子どもの普通の姿ですから。まあ稀にいますけどね、物怖じしない子っていうのは。だから、当たり前ですよ、人前に立つ緊張感っていうか、構成して話すことの難しさってこれはもう相当、論理思考が高度にならないとできないことですから。このこととこのことと、このことを言おうって決めて話すってことは。司会なんかしている人みると、文章丸まる読む人なんかいますよね。あれはまだこう、人前で話す基本形ができていないっていうことなんですけど。

ひとつはね、「苦手」って言ってるけど、お母さんも、これに同調しないでほしい。「いや大丈夫、だってあなた、お母さんとちゃんと喋れてるじゃない。そういう子は大丈夫よ」っていう、お母さんの「大丈夫よ感」がね、大事なんですよ。こう、安心させてあげて欲しいっていうか。「あのね、これはね、まだ一年生だしね、必ずそれはできるようになるから大丈夫だよ」ってお母さんがいうと、「ああなんか大丈夫なのかな」と思う。でも「あなたのそれ心配よね」となると、「ああ、俺ってこういう問題抱えてるんだな」という認識になりますから。これはお母さんの対応がちょっと大事ですね。毅然としててほしいというか、堂々としていてほしい。

具体策としてはね、国語の本でも書きましたが、要するに「会話」なんです。何か詰めて集中するのと、表現するのとは別なんですよね。ちゃんとこう相手にわかるように、まして魅力的に表現するなんてのは、そうとう人間修行のね、学校とか関係ないですし、中心課題だと思いますね。やっぱり話が面白い人のところに人は集まるしね、夫婦間だって話が面白くなければ、一体なんのためにこの人と一緒にいるのかなってなっちゃうし。そういう意味でも、ちゃんと表現するということ(は大事)。

で、そのもとは何かというと、豊かな経験とか読書体験とか、作文を一生懸命頑張ったとか、色々あるんですけど、一番もとのもとは、「家の」「会話」ですから。ここのところでね、お母さんがちゃんと引き出してあげて欲しいんです。今日何があったのとね。特に男の子なんか言わないですからね。「別に」みたいにね。「別にじゃないの。何がどうしたのかって、言いなさい」、という風にね。追っかけまわして聞いてもいいですよ。でね、漫画とか映画とかを面白かったという時はチャンスですね。「あら、何がどう面白かったの」って、これも、勉強の講演会で言っていますけれど、「何々が何々した、話」という風にね、物語の要旨を言えるか。あと、骨格をですね。それから、意見表明みたいなもの、例えば「フランスからお客さんがいらっしゃって、授業でこういうことを言っていたよ」「こういうことってなあに」「これは、日本人は、自分の頭で考えるべきだって、言っていたよ」というようにね。「要旨、その人の言いたいことを、的確につかめるかどうか」っていうことがすごく大事ですね。

そういうものから全部が始まるっていうのかな。そして、「文章で会話して」欲しい。今はお母さん自体が、子どもが言う「水!」と言えば出てくるような会話に、ちゃんと応えてあげてしまう文化で育っちゃっているので、もう会話が崩壊しているんですよね。国語はダメダメ、と言っていますけれど、算数の遺伝子としての才能があるのにやっぱり国語がダメだから四教科そろわずに目標の中学、高校に行けなかった、なんていう子は、何がいけなかったかというと、もう本当に国語ですよ。ことば、ですよ。読み取れないんですよね。決定的ですよ。勝手読みして自分で決めつけて読んでしまって、わかった気になって読んでいる、捉え違いしているとかね。もういっぱいあります。

ですからお母さんが、「要旨を言わせる」それから「聞いたことに答える」ということを徹底して欲しい。「問題を解くっていうのは、いつもコミュニケーション」ですから。つまり相手がわかる、表現にもつながるんですけれども、「相手が聞いていることはここだから、答えはこれです」ということを返していかないと、ということなんですね。簡単に言えば、「今日学校楽しかったの」って言った時に、「ていうか、腹減った」みたいなこと言ってきたら、「ていうか腹減った、じゃないでしょう」ってドスきかせてね、「お母さんは学校どうだったか聞いてんのよ」「まあ普通」「まあ普通って日本語じゃない」みたいに。「これこれがこれこれしてどうなったというように言いなさい」という風にね。で、こういうことって、小さければ小さいほどいいんですよ。3年生くらいになると、もう慣れてきてますからその会話に。それにお母さん今まで流しちゃってるから、結構修正は大変。「別にとか普通とか、日本語じゃないわよあんた」って言ってるくらいでちょうどいいんですよ。大人がそうですからね、今は実際。だからコミュニケーションが苦手だし、 国語が読めない人だらけになっている。その辺りを、特に女性は言葉の面ではリーダーシップを取るべきだと思いますから、豊かな表現とか、よく分かるとか、要点がはっきりしている、とかいろんな目で見て、「こういうことを言いたいのね」とちゃんとした正しい表現で教えてあげればいいんですよ。いい言い方をきちんとみせてあげる、というのが大事だと思います。いずれにしても「家での会話」というものがベースにあるということです。

(臨場感を伝えるために、あえて話し言葉のまま掲載しています)