西郡コラム 『子どもたちへの講演5』

『子どもたちへの講演5』 2014年2月

あなたはものを覚えることが得意ですか。それともなかなか覚えられないと思っていますか。私自身は覚えられない、記憶力が悪いと常々思っている一人です。でも、もって生まれた才能を嘆いても仕方がない、もって生まれたものでやっていくしかない、ということが分かってきました。

前回もお話ししましたが、感動すること、これは心に残ります。しかも一瞬にしてです。記憶力が乏しい、なんて考える前に、どれだけ感動するか、そうすると自然と覚えられる。覚えようとすることより、自分の感性で、感じる、感動する、実はこれが覚える基本なのです。そうするとわかってくるのは、自分の五感を使った方がより覚えるのではないだろうか、ということです。書いて覚える、見て覚える、そして音にして声に出して覚える、あなたの持っている感覚をフル回転させること、これが覚えるコツになります。

心に残る、ここでも先にお話ししたイメージ力ですね。文字だけではなかなか覚えられない、文字と絵が一致すると覚えやすくなる。「喜怒哀楽」はどうでしょう。自分の感情をイメージすればより覚えやすくなりますね。確かに、文字をイメージするのには一手間かかります。しかし、この一手間を面倒とするか、当たり前とするか、習慣の問題ですが、覚えられる人は、上手く覚える方法を身につけているのです。一手間を惜しまないことです。

道場の生徒で、漢字の学習が得意な子がいました、どうして得意なのと聞くと、花まるの漢検で満点をとって、それが嬉しくて、それから漢字を覚えるのが好きになりました、と答えてくれました。そうですね。好きになる。覚えるのは脳、そこで好きになる、前向きになる、面白いと思う、そうすると脳がより働くわけです。皆さんも自分が好きなものはよく覚えていますよね。嫌いと決めつけないで好きになること。花まるの漢検で満点を取るのには、簡単ではないですが、一度、ちょっと頑張ってみる、そうすると好きになる、面白くなります。

もう一つ「矛盾」という言葉があります。辞書を引いてみてください。ある人が矛と盾を売っていた。その人は、この矛はどんな盾も貫くといい、この盾はどんな矛にも貫かないという。それを聞いていた人が、その矛でその盾を突いてみろ、といったわけです。話のつじつまが合わない、「矛盾」とはそういう意味になります。これで「矛盾」という言葉は、皆さんは忘れないでしょう。なぜ忘れないか。そこには物語があるからです。辞書を引いてみてください、というのも分かってくれましたか。辞書には、読み、画数、部首、成り立ち、意味が載っています。そうですね。その漢字の物語が載っているのです。ただその文字だけだと覚えにくい。意味で覚える、さらに物語として覚える、どうでしょうか。覚えられそうですね。

そして、辞書にはその漢字を使った熟語も載っています。その漢字が他の漢字と結びついてどういう意味の言葉ができるのか。例えば、5年生で習う「圧」という漢字は「力」と結んで「圧力」になる。「圧」という一字より「圧力」の方が日常目にしやすい、イメージもわきやすくなります。つまり、関連付けると覚えやすくなるということです。連想ゲームですね。一つのことに関連させるだけで覚えやすくなる。これも一手間です。面倒ですが、当然のこと、習慣にしてしまいましょう。

では、どうして忘れるのでしょうか。前向きに考えてみましょう。新しいものを受け入れるから、古いものは忘れる。時間が経てば忘れる。忘れるのは当たり前のことなのだ、忘れることを恐れる必要なはい、と考えましょう。まず、そこからスタートします。そうはいっても、覚えなくていけない、さて、どうするか。仕方がありません。反復するのです。忘れるから、また覚える、とうことです。花まるの高学年、FC、道場で「言葉ノート」を作っていると思います。出会った言葉、これって何て読むの、どんな意味があるの、どう使うの、と思ったらこの「言葉ノート」に書いておく。この言葉って何だろう。そうですね。まず、何だろう、これが大切です。好奇心のお話は以前にしました。でも、次第に忘れる、だからノートに書いておくのです。そして、ノートは繰り返して見る、しかしただ見るだけでは、頭の中を素通りしてしまうだけです。覚えているかどうかを確認することです。

ただ何度書いても覚えられない。実は、そういう人によくある傾向は、覚えることが目的なのに、いつの間にか書くことが目的になっていることです。ただ、やる、ではなく、集中力。頭に刻み込むわけですから、漫然としていては覚えられません。そして覚えようとする意志。できる、覚えられると信じる。楽しいからできる。さらに意味で覚える、関連づけて覚える。覚えるものに絵をつける、イメージで覚える。物語があれば、より忘れない。そして忘れるから、繰り返す。どうでしょう。頭が悪い、覚えられないと嘆く前に、出来ることはたくさんありますね。

どれだけ覚えているか、入学試験では、これを問う問題も多くありました。しかし、時代の変化とともに、覚える量だけでは通用しなくなってきています。覚える道具が進化してきました。分厚い辞書を持ち歩く必要はなく、携帯の電子辞書があります。これって何だろう思えばPCを開けばいい。ノートの代わりもします、しかもより便利にできています。ですから、問われるのは、覚えた量ではなく、覚えたことをどう使うか、どう生かすかになってきます。

ここも前向きにとらえましょう。覚えることをどう使っていくか、自分で考えることが大切なのだ、と。そして、自分で考えるから、覚えられるのです。