松島コラム 『地元愛』

『地元愛』 2014年10月

お盆で帰省された方も多いと思う。私の故郷である群馬県みどり市はサマースクールのコース、「体験ワンダーランド」の開催地としておなじみな方もいらっしゃるだろう。生家はそこよりもさらに車で上った山深いところにある。その姿は今も昔もほとんど変わっていない。しかし、現実には過疎が進み、村内にあった3つの小学校は統廃合され、現在は1校となってしまった。近隣の村でも同じように子どもが減り続け、一学年の児童数が10名に満たないのが普通である。日本の少子高齢化の問題はメディアでもよく取り上げられるが、すでに地方では深刻な問題となっている。仕事、医療・介護、交通手段、空き家・耕作放棄地問題など打つ手がない状況だ。
 先月、北海道のある地区の教職員・PTA研修大会に講演でうかがった。函館から車で2時間、山間部を抜けると日本海が眼前に広がる大自然に囲まれたすばらしい所だ。飛行機の関係で2時間ほど早く着いたため、校長先生や教育委員会の方々と地域の抱えている問題や地元の子どもたちの様子などをうかがうことができた。就業人口のほとんどは農業、漁業従事者だが、それでは食べていけず、男手は東北、関東に出稼ぎに出ている。地元には仕事がないため若者は都市部に転出し、高齢化が急速に進んでいる。子どもたちは、健康センターの冷房の効いた部屋に集まってゲームをしている。外ではほとんど遊ばない。中学生の携帯普及率は50%近くで、最近ではLINEをめぐるトラブルがあったとのこと。ゲームに関しては、ある程度予想はしていたものの、まさに手付かずの自然に囲まれたこの地でも、「やっぱりそうなのか。」と複雑な思いだった。「昔は自由に海でも川でも遊べたんですが、今ではどこも立ち入れないようになってしまって・・・。」これも地方に講演に行くとよく聞く話だ。近くには塾はない。函館まで時間とお金をかけての塾通いは現実的ではない。
 地域のつながりはまだ残っているが、学校の先生とのつながりが少ない。校長・教頭を除いて一般教員は地元には住まないのだという。車で30分以上離れた栄えた町に住居を構える。転勤が多いため仕方がないことではあるが、自分の家族を不便なところに住まわせたくないというのが本音のようだ。したがって、地元のお祭りや行事にもあまり参加しない。そういえば、私の地元でも教員住宅があったが誰も住んでいなかった。
 出口が見えない課題が山積みの地域の方々に、私の講演で何を伝えられるだろう。開演まで話す内容を考えていた。外野から「べき論」ばかりを聞かされても面白くはないだろう。しかし、最終的に私ができることは、前向きな話をして元気を与えて帰ることだ。その一つのきっかとしてまず武雄市の話をした。地方であっても世界の最先端の教育を受けることができる時代。地域再生にはICTの積極的な活用が不可欠であることを伝えた。生まれた時から携帯やインターネットに囲まれて育ったデジタルネイティブ世代の若者こそ、この分野で活路を見出してほしい。実際、新しい知恵や技術を取り入れて、地域再生を果たしている事例は北海道にもたくさんある。
 実行委員の人の言葉が心に残っている。「若い人たちも、ここで育った人はみんな地元が好きなんですよ。出たくて出て行くわけではないんですよね。」そうだと思う。私も故郷が大好きだ。日本全国、いたるところで同じような状況が起きている。そして、同じような想いを持っている人が大勢いるはずだ。そんな地元愛を形にできる仕組みを考えられないだろうか。
 心配をよそに会は盛況に終わった。今後も機会があれば、地域再生を目指す地方の大人や子どもたちに、直接語りかけていきたい。