花まる通信 『「ごめんね」』

『「ごめんね」』2015年8・9月

先日、友人から「この間、うちの新人叱られたあと喫茶店から3時間帰ってこなかったよ」という話を聞き、これからの日本は一体どうなってしまうのか、と一瞬眩暈がしました。

問題が発生した時、ぎゅっと隠してしまう人が増えたなという印象を受けます。働いている方ならば100人中100人が思う「クレームは芽が小さいうちに言ってくれ。大きくなってしまってからは取り返しがつかない」ということを何度言っても、報告せずに隠してしまうというのは、その経験がないからなのでしょう。「謝れない」「間違ったことを言えない」「隠してしまう」というのは、今まで「失敗を許されない人生」を歩んできた「経験量の不足」という結果なのだと思います。

年末年始雪国スクールの年長コースである出来事に出会いました。一泊二日の大冒険がもうすぐ終わり、帰る荷物をまとめて部屋から大広間に移動するとき、「ほら、2人とも移動するよ!」とちょっと焦ったリーダーの声が聞こえてきました。近寄ってみると、明らかにお互いを睨み付ける2人の男の子の姿が。S君とK君です。S君はぐっと唇に力を込めてこらえている様子。 K君は「なんでそんなこと言うの!!」とちょっと泣きながら興奮気味にS君に向かって怒鳴っていました。すでに別の班の子どもたちは大広間に集まり始めていたため「ケンカをするなら2人は移動しないよ。仲直りしてから移動するからね」と言って班から引き離し他の子どもたちはリーダーに連れていってもらいました。廊下には私と2人だけ。「何があったの?」と聞くとS君が「…やり方を言って欲しくなかった」と低い声で呟きました。

「…あのね、もうすぐ1年生になるから、待ってくれたら自分で考えてできるようになるの。でも、やり方を言われちゃったから、それがヤダって言ったの。」

すると、K君はすかさず「だからって『言わないでよ!』って怒らなくていいでしょ!怒られたのが僕は嫌だった!!」とS君の頭の上から大きな声で叫びました。あまりにも大きな声だったためS君はぎゅっと耳をふさぎ、クルッと背中を向け…そして我慢していた分、ボロボロと泣き始めました。

S君はきっとお家の方に「もうすぐ1年生になるから自分で考えるんだよ」と教えてもらっていたのでしょう。だから、自分でやりたかった。けれどK君はS君が困っていると思った。だから、優しさから答えを教えてあげた。ちょっとしたすれ違いですが、両方とも譲れないものをもっている。それは大人でもよくあること。思わず胸がぎゅっとなりました。

「…そっか。S君は自分で考えたかったんだよね。そしてK君は優しさから教えてあげたくなったんだね。二人とも、ちょっとすれ違っちゃったんだね。そういうこと大人でもあるんだよ。そう言う時はね『ごめんね』って言えると、相手に気持ちが伝わって仲直りができるんだよ」と私は伝えました。

ちょっとした沈黙が流れます。するとS君は、ボロボロ零れていた涙をぐっと拭うと、クルリと振り返り「…ごめんね」と言いました。K君も「いいよ」と言います。S君に「偉いね」と私が言うと、S君は「…僕だけごめんねって言うのは、違う。君も言って」と涙目で言いました。K君は「…ボクもごめんね」と小さな声で言って、S君も「いいよ」と言いました。二人はちょっと気まずそうにしていましたが30秒後には笑って大広間に移動していました。あぁ、子どもってすごいなと思った瞬間でした。

「ごめんね」と自分に折り合いをつけることは大きな壁です。そして、グッと「我慢」をすることも。自分から言えなくて「君もだよ」と言われたときに素直になることも、全部自分を成長させる大きな壁です。その壁にたくさん触れ、越える経験をすることで、どんなことも受け止めることが出来る、しなやかな心を持った魅力的な人になるのでしょう。今の大人に足りない部分を年長のS君とK君に教えてもらいました。

野上 かおり