西郡コラム 『人権集会で話したこと』

『人権集会で話したこと』 2017年10月

小学校の公式行事に人権集会がある。人権を尊重し、差別・偏見をなくし、共存する社会をつくるための啓発として学校・地域が取り組む行事だ。今年度から花まる学習会と提携し、花まるメソッドを導入した長野県の公立小中学校から人権集会での講演依頼があった。
 過疎地(児童生徒数減)が存続するための、小中一貫の公立学校での講演には、小学生、中学生、保護者、職員、副村長、教育委員会委員、人権擁護委員、地域住民等々、年齢立場も様々な人たちが集まった。それだけに、だれに向けて話すかが難しかったが、小中学生に聞いてもらう話にして、少しでもわかりやすくするためにパワーポイントを使い、簡潔な一文とイラストを提示して話の内容を絞った。
 冒頭、小学生には、A君「おい、のどがかわいた、水をくんでこい!」の後に困った表情のB君のイラストとセリフを見せ、「あなたがB君ならどうしますか」「あなたがB君の保護者ならどうしますか」と問うた。中学生には、C君「おい、パン買ってこい!」の後に困った表情のD君のイラストとセリフに対して、「あなたがD君ならどうしますか」「あなたがD君の保護者ならどうしますか」と問うた。また、職員ならどうするか。地域の住民ならどうするか。それぞれの立場で考えてもらう時間を取り、小中学生それぞれに聞いてみた。
 問題設定は、前後の文脈、人間関係、状況次第でいかようにも対応できて正解はないが、私の経験談として「水をくんでこい」は、B君本人にどうするか任せる、大人は介入しない。跳ね除ける怒気があるか。なければ水を汲んでくる人生を歩む。生きていくために、自分の生き方を自分で作っていく。「パンを買ってこい」に対しては、中学生は自分でお金を稼げないから、買うお金を親からもらうには、親・保護者に話すしかない。人が稼いだお金はとるな、と一線をこえてはならないことは大人が教える。
 次に、「どうして、わたしたちは、学校で学んでいるのでしょうか」という画面を出して、問うた。これも考える時間をとり、その後、何人かの小中学生に聞いた。次の画面を出した。「かしこい人(ひと)になるため!まわりの人(ひと)を幸(しあわ)せにするため!世(よ)のなかの、ものやことをよりよくするため!いざというとき、おれない心(こころ)と体(からだ)をつくるため!」
 人権を尊重する、差別・いじめをなくす、といった人権集会の狙いと、今学校での学習を結び付けて考えてほしいからこの展開で話した。学ぶのは賢くなるため、楽しむ人生を送るためであって、人権を尊重するのは当然。いじめなんて楽しくない、くだらない。この心境に到達するために学んでいる。
 日常の、具体的な学習の中にこそ、人権の思想は当然入る。「皆さんは『サボテン』をやっていますよね。サボテンの学習で最も大切なのは、『他人と比べないこと』『昨日の自分よりもよくなること』です。自分より遅い人やできない人をみて、できない、遅いと馬鹿にしていては、何のために学習しているかわかりません。持って生まれた能力を比べては仕方がないのです。ハンディキャップの人に見えない、聞こえない、話せない、と指摘したところで、馬鹿げているだけでしょう。記憶力がない人もいる、計算が遅い人もいる、うまく読めない人もいる。人それぞれが違うのです。大切なのは、持って生まれた能力をよりよくしようとしているかどうかです。」
 人権集会という儀式も必要。しかし、要は、日々の学習に人権の思想が落とし込まれているかどうかだと思う。

西郡学習道場代表 西郡文啓