Rinコラム 『こころのきはん』

『こころのきはん』2025年9月

 7年前から保育園とその先の小学校で、非認知能力を育む指導としてアートを通じた出張授業をおこなってきました。
 先日、ある保育園の先生からこんな報告をいただきました。
 「しっぱいはないって、Rinせんせいも言いよったきね(言ってたからね)」
 うまくいかずにくじけそうになる仲間に、子どもたちがこんなふうに声をかけ合っていたそうです。
 自分のこころと同じように、他人のこころも大切にできる――そのことに胸が熱くなりました。

 そのときふと、10年前に小学一年生だった、ある女の子のことを思い出しました。毎月授業後に彼女の保護者からいただくメッセージのなかで教えてもらったことです。

 先日、小学校の図工の授業参観がありました。先生がひと通り説明したあと、「今日は自由に作っていいですよ」と付け加えました。
 娘は目を輝かせ、横で見ていた私に、「自由にやりたいようにやっていいですよ!」と嬉しそうに言いました。
 目一杯時間を使っている娘の耳元に「時間がきたら……?」とつぶやくと、「おしまいです‼」とニッコリしました。
 できあがった作品をお友達と見せ合い、みんなに作りかたを聞かれると、「まねしていいよ‼」と丁寧に教えていました。Atelier for KIDsで学んだすべてが娘の日常に活きています。一か月に一度の経験が、こんなにも子どものこころにしっかり根付くこと、感謝しております。
 毎回「ARTのとびら きはん」を確認しているうちに、工作以外にもそのきはんが活きていることを折々実感しています。
 娘にとって、いま、日常生活すべてにおいて“くじけない”がこころの合言葉になっているようです。サボテンをやっていても、「くじけない……」とつぶやいています。お正月の書き初めにも、「くじけない……」と声に出して、自分で自分を励ましながら納得いくまで取り組んでいました。自分を表現すること、時間を守ること、くじけないこと。今年もたくさんのことを親子ともに学んでいきたいです。
 兄の参加が決まった今回、娘は大喜びでした。この一週間、“小さなRinせんせい”がわが家に登場しました! ちょっぴり不安そうな兄に、ARTのとびらのきはんのプリントを取り出しては、丁寧に読んで、「大丈夫よ。まねっこもいいの。できるのは世界に一つの作品だからね」と優しく説明している姿は、すごくほほえましい光景でした。
 すっかり娘のこころに浸透し、“こころのきはん”になっているんだなぁ……と思いました。
 娘の大切な世界は、みんなに自信をもってすすめたい、分かち合いたい大切なものになっている。Atelier for KIDsは娘のこころを温かく包み込んでくれる、解きほぐしてくれる大切な時間です。親の私も、たくさんの大切なことに気づかせていただきました。作品を見せるときのキラキラした目はきっと一生忘れません。

 自由に創作して、自分を表現していい。大事なのは、自分のこころがどう感じているか。くじける必要などない。人生は自分でいくらでも決めていける。そのことを、アートを通して、学習を通して、伝えていきたい。
 彼女にとっても、保育園の子どもたちにとっても、“ARTのとびら きはん”は、“こころのきはん”になっていた。哲学のタネとなって彼らのこころの支えとなる。そのことほど、嬉しいことはありません。
 
井岡 由実(Rin)