『最善の選択を信じて』 2025年11月
「わが子は中学受験か高校受験か、公立か私立か」最初から方針を決めているご家庭もあれば、あふれる情報のなかで迷われているご家庭もあると思います。ご夫婦で意見が食い違うこともあるでしょう。「ぼくは中学・高校とも公立だったけど、とても充実していた。無理して私立に行く必要はないのでは」「私は中学受験をして私立に行ってよかった。恩師にも出会えたし、一生の友達もできたわ」
ただし、そうした意見はあくまでも自分のことにすぎません。大切なのは「わが子の場合はどうなのか」という視点です。そもそも、公立に進めば私立の良さは実感できませんし、その逆もまたしかりです。自分の経験でしか語れないところが難しさでもあります。
これまでたくさんのご家庭の相談を受けてきました。「うちの子は受験に向いているのか」「どこの中学が合っているのか」など、相談は多岐にわたります。ひとつの悩みが解決するとまた次の悩みが生まれてくる。子どもは常に成長していますから、親の不安はなかなか消えません。
「まわりの子と比べて、うちの子は全然やる気がありません。何かいい方法はないでしょうか?」。比べてはいけないとわかっていても、やはりほかの子が気になってしまうものです。
多くの大人はこれまで、「正解ありき」「偏差値重視」の教育を受けてきました。あまり疑うこともなく、それが将来につながる勉強だと信じていた時代もあります。しかし、厳しい受験競争を突破しても、実社会では相手次第で答えが変わることもあります。明らかに間違っているものを「正しい」と言われる場面すらあります。その狭間で悩み、心を病んでしまう人も少なくありません。人間関係にこそ正解はないのです。それでも、どこかに正しい答えを求めてしまう――私たちはそんな社会を生きてきたのかもしれません。
子育てもまた「正解がない」と言われます。私はこれを前向きにとらえてほしいと思っています。そもそも正解を探す必要はありません。思ったように子どもが行動してくれないとき、それは誰が悪いわけでもないのです。むしろ、親の言うとおりにしか行動しない子のほうが少し心配です。親離れの過程では自分の意思が芽生えてきます。最初はやんちゃで手がかかる子ほど、豊かな発想や人とは違う才能を持ち、欠けている部分を補ってもあまりある成長を見せてくれることがあります。ところが、失敗や欠点ばかりを指摘しすぎると、本人の長所までつぶしてしまうことがあります。
最難関と言われる進学校で生徒に講演をしたときのことです。「失敗することの大切さ」を伝えたところ、「失敗はしてはいけないと思っていました」「勇気が出ました。いろいろなことに挑戦したいです」といった声が多く寄せられました。優等生と言われるような子のなかには、学校のテストや模試で優秀な成績を取ること自体が目的となり、自分自身の個性や強みに気づけない生徒もいます。最近では、いい大学に進んでもその先の進路を決められない学生が増えているとも聞きます。 コロナの時代がそうであったように、子どもたちはまさに「答えのない未来」を生きていきます。過去の経験や実績が通用しない、失敗から学ぶことが当たり前の時代。そういう社会では、失敗を恐れず、自分の意思で決断し、行動できる人が求められるでしょう。
わが子のことを一番理解しているのはやはり親御さんです。一緒に悩み抜いて出した答えなら、それがその子にとって最善の選択になると私は思います。わが子を信じ、良いところを認め、たとえ失敗してもたっぷりと愛情を注いであげる。そのなかで進むべき道は自然と見えてくるはずです。たとえ途中で迷ったとしても、親から受けた愛情こそが人生の大きな支えになることは間違いありません。
いよいよ受験シーズンがやってきます。受験生が本当に伸びる時期はここからです。
もちろんまだまだ思ったように成績が出ないときもあるでしょう。親として不安で胸がいっぱいになることもあるかもしれません。しかしここで大切なのは、失敗を問いただすことではなく前向きな励ましなのです。「信じているよ」たったその一言が、子どもの心を温かく包んでくれます。ここからの数か月、お子さんとともに歩む日々が、きっと一生の宝物になるはずです。最後まであきらめずに進んでまいりましょう。
スクールFC代表 松島伸浩
