『理系の力』2026年2月
物情騒然の世界情勢のなか、新年が幕を開けました。80年前、第二次世界大戦の大惨禍を経て、もう二度とこんなことが起きないようにと多くの人が願い、国連が設立され、日本はというと敗戦国でもあり、徹底した平和教育がなされてきました。しかしそこで「あるべき」と指導され信じられてきた諸々の道徳観や規律が、いまや常任理事国という大国自身によって、根こそぎ否定される現実を見せつけられる時代となりました。ちょうど先日、NHKで、ビットコインが数百億円単位で盗まれた事件の真相に迫るという番組をやっていたのですが、国家単位で大きな犯罪に手を染めている国が存在し、また大国間で驚くような取引がなされていることがわかり、背筋が凍る気持ちにもなりました。
個人的にも、まさに「戦争だけは繰り返してはいけない」という国家全体の信念のようなものにくるまれて育ち、幸運にも「戦争を知らない子どもたち」のまま生きてこられたのですが、2026年の現在、もはや視界不良です。そもそも大戦後80年間で戦争をしなかった国家はごく少数なのですが、幸運にも日本はその一つでした。しかし歴史は繰り返す。教科書のなかで読むだけだった大震災やパンデミックも結局経験することになったように、戦争もいまやいつ巻き込まれるかもしれません。机上の理想にすがって目をつむるのではなく、他国の在りようを直視し、上手に立ち回りあの手この手を繰り出して生き延びなければなりません。ただ、私は否定的なだけではありません。世界中がどうなったとしても皆人間。心のある同じ人間だし、本心は平穏な日常を願っているもの。実は長年ほとんど敵を作らずやってこられた、基本的に穏やかでモラルがしっかりしたレアな国日本こそが平和へのカギを握っていると思いますし、救いの道はあると信じます。
その土台でもあるのですが、強みのある国は攻められにくい。貿易をおこなう多くの国ともつながることから、経済力という強みがあることは大きな防衛策となります。失われた30年を乗り越え、私たちは再び経済成長を目指したいところです。その点でカギとなるのがイノベーションです。都知事選での登場から先の選挙で参議院議員になった安野貴博氏のお話しを聞く機会を得たのですが、頭脳明晰で国会に新しい風が吹いていることを感じました。あまりに切れ者過ぎて嫉妬されたり妨害されたりすることは今後の心配ですが、頑張ってほしいものです。そのとき彼が語っていたことのなかに経済成長の話題がありました。
経済成長が可能な道は三つである。一つ目は人口増。二つ目は天然資源に恵まれていること。そして三つ目がイノベーション。人口増も可能性はゼロではありませんが、大きな流れとしては厳しい。三つ目の道しか日本にはありません。つまり、国家として目指すべきは、力あるイノベーションを起こせる人間を育成することということになりますし、親としても子どもにそこを目指させることは、あるべき道の一つだと言えます。
もちろん人生の価値観はそれぞれですし、これからの時代に活躍する人の在り方もさまざまです。例えば私が尊敬する技術の先端に立つ人物は、AIのものすごい発達の時代に人間に残るのは「ストリートファイトの力」と言いましたし、歴史に超絶な見識のある人物は「親分力」と言いました。それは、合理的な判断や正解があることについての判断力などはすでにAIが人を超えてしまっていて、人に残るのは、「理性と共に感情などの不合理を抱えた人間群を、合理も不合理も含めてあるがままに引っ張る力」であるという意味です。そういう「わが子の未来に求められる力」を輪郭鮮やかに見切っておくことは、大事なことです。
一方、それらを踏まえたうえで、わが子をもしもイノベーションを起こせる起業家に育てたければ、どうすればよいでしょう。知識は幅広く深ければ深いほど良いですし、本質や課題をとらえきれる「見える力」や、自己決定できる「主体性」、「決断力」も必要でしょう。また一つのことをやり通す「意志力」、決めたら結果を出すまで「やり切る力」も求められるでしょう。それらの育成は、もちろん花まる学習会が最も得意とする部分ですが、普段の没頭した遊びっぷりや外遊びの総量、家庭でのお手伝いなども効いてくるでしょう。
それはそれで踏まえたうえで、特に強調したいのが「理系の力」です。素早く正解を出してテストに合格するための力ではなく、関心にしたがって深く深く掘り下げるオタク的な理系力です。
長年若者起業家のメンターや支援をやってきましたが、IQの高さはあっても案外つぶれやすいものです。その原因は起業した仲間との喧嘩のようなこともありますが、良いアイデアに見えたことが「真似されやすいこと」だと、すぐに盗まれてしまうということなのです。
この世界の課題を見抜く卓見とともに、「医療やロボティクスや宇宙工学など専門性が高くて真似されにくい、あるいは特許等で守られた技術力」が伴うと、会社として強靭なのです。ですからそのようなパワーにつながる学習や経験は、どれも良いことだと言えるでしょう。本来の知識を学ぶ算数・数学や化学や物理や生物学などの普段の学習はもちろん、手先を器用に使う専門性や技術系の力があることも素晴らしいことですね。皆で協力して、子どもたちのしなやかで強靭な力を育てましょう。
花まる学習会代表 高濱正伸
