松島コラム 『知的好奇心を育む』

『知的好奇心を育む』 2021年2月

 様々な制約の中で行われた2021年の中学入試が終わりました。全体をふり返る機会は改めて設けさせていただきますが、速報値によると首都圏の受験者数は、昨年並みまたは微増だったようです。コロナ禍での初めての受験、受験生とそのご家族にとっては、不安や緊張の連続だったと思います。本当にお疲れ様でした。それぞれの進学先で新たな学校生活を存分に楽しんでください。高校受験も終盤戦、あともう一息です。一足早い桜咲くの便りをお待ちしています。
 この時期になると、受験や教育をテーマにした記事をあちらこちらで見かけるようになります。新たなSNSも活況で、様々な教育論が展開されています。気をつけていただきたいことは、こうした記事やSNSには、組織や個人の利益誘導を目的にしたものが混在しているということです。私たち教育業界にいる人間にとっては、明らかなポジショントークだとわかることでも、保護者の方がそのまま事実として受け取ってしまうと危うい内容もあります。有名なメディアであっても、発信者はだれなのか、偏った意見を言っていないか、何事も鵜呑みにしないことが大切です。
 中学受験の世界は一種の情報戦のような慌ただしさがあります。しかし、そういう波に飲み込まれてしまうと、わが子の状態を冷静に見ることができなくなり、理想像ばかりを追いかけてしまうことになります。無理を強いると子どもはますますやる気を失い、宿題はおろか学校や塾に行くことも躊躇するようになるかもしれません。拙著「中学受験親のかかわり方大全」でも取り上げているように、思い通りにはいかないのが中学受験です。親がそのストレスをどう解消して、子どもとの距離をいかに上手に保っていくのか、「中学受験は親の受験」と言われる所以がそこにあります。
 子どもは、普段の生活が勉強に結びつくと、楽しい、面白いと感じてやる気が出ることがあります。「勉強しなさい」と言わなくても、自分から学ぶ子にするためには、いい問題集や参考書を探すことよりも、まずは知的好奇心をくすぐるような家庭での会話を大切にしてほしいと思います。
 たとえば、「細菌とウィルスって違うみたいだよ」という話をきっかけに、親子でどんな違いがあるか調べてみたり、「オリンピックを開催するべきか」ということを家族で議論してみたり、そうしたことが学校や塾の勉強につながると、より学習意欲が高まっていきます。家事や仕事でなかなか時間がとれないこともあるでしょうが、ちょっと外に出かければ、子どもの興味・関心をひく材料はたくさんあります。大人でも知らないこと、わからないことに出あうはずですから、帰りがけに図書館に寄って一緒に調べてみることで、本を読むことの大切さを伝えることもできます。もちろん、コロナ禍では感染対策をしっかりとして、3密には十分注意する必要がありますが、少しずつ暖かくなってきましたから、家族で学ぶ時間を作ってみてはいかがでしょうか。
 先日対談させていただいた東大名誉教授で日本保育学会会長の汐見稔幸先生は、「知性のもっともベースにあるものは感情です。知識ではないのです。感情の豊かな動きがないと、知性になりません。ギモンに思う、感動する、場合によってはおこる、悲しむ、そういう感情が知的なもののベースになるのです。子どもたちは、生活の中の体験をとおして、さまざまな感情をからだで受けとめながら、広い意味での知的センスをみがいていきます。」とおっしゃっています。日々の体験から得られる知的好奇心こそが、学ぶことの楽しさの原動力になるのです。
 スクールFCは、「勉強することが楽しい」の先に幸せな志望校合格があるという考え方です。まずは学校も塾も楽しく通っているか、そこをスタート地点にしていただき、もし不安な表情をみせることがあるようでしたら、できるだけ早くその原因を取り除いてあげる必要があります。家庭の中だけでは解決できない場合もありますから、遠慮せずにご相談ください。
コロナが終息し、外で思いっきり遊べる日常に早く戻ることを願うばかりです。
 ※参考:「学力の基本は好奇心です」(汐見稔幸著、旬報社)

スクールFC代表 松島伸浩