松島コラム 『動機づけ』

『動機づけ』 2022年9月

 「次のテストで偏差値が上がったら新しいスマホを買ってあげる、というようなごほうびでつるやり方はよくないでしょうか?」講演会や面談などでいただく質問です。一般的に、学習することが目的で、学ぶことそのものが楽しい状況を、内発的動機づけによる学習と言います。一方、学習することが手段で、たとえば志望校に合格するために学習している状況を、外発的動機づけによる学習と言います。外発的動機づけの中でも、親や先生からの賞賛や報酬をもらうために、また罰や叱責を避けるためにしかたなく勉強している状態は好ましくないとされてきました。しかし最近の動機づけの研究では、学習者の自律の程度による分類が主流になっており、これまでの外発的動機づけの項目の中にも、好ましいとされるものが出てきています。
 自律の程度による動機づけの分類では、その程度の低い順に、外的調整、取り入れ的調整、同一化的調整、内的調整、に分けられます。学習場面での理由の例としては、外的調整は「やらないと叱られるから、お母さんに言われるから」、取り入れ的調整は「友達に負けたくないから、ばかにされたくないから」、同一化的調整は「将来にとって必要だから、希望する学校に進みたいから」、内的調整は「問題を解くのが楽しいから、自分が勉強したいと思うから」などがあります。ここでは「学習したいとは思わない」という無気力の状態は除いています。
 外的調整と取り入れ的調整は、外からの要求や他者との比較による動機づけであり、他律的な状態と言えます。それに対して同一化的調整と内的調整は、学習を自分事に捉えて受容することによる動機づけで、自律的な状態です。
 これらの動機づけと成績との関係を予測した研究によると、将来的な学業成績では同一化的調整が最も良好であるとしています。元来望ましいとされてきた内発的動機づけ(学ぶことそのものが楽しい)にあたる内的調整では、現在の学力は高い傾向にあるが、そうした認識は時間とともに変化しやすく、その状態を継続できるかどうかがわからないため、将来の学力を予測することは難しいとしています。要するに同一化的調整では、他人から強制されることなく、「将来にとって必要だから」「希望する学校に進みたいから」という理由のもと、目標に向けて継続的に学習に取り組むことにより、将来の成績が良好になるということなのです。もちろん、同一化的調整と内的調整を合わせた自律的動機づけは、学業成績や精神的健康(自尊感情の高さ、抑うつ傾向の低さ、ポジティブな感情)の面でも、他律的な動機づけよりも良好であることは確かです。
 ベネッセ教育総合研究所「小中学生の学びに関する調査報告書(2015)」のレポート、「自律的な理由で勉強することが適応的である」(筑波大学准教授、外山美樹)でも、次のように述べています。

 小学生、中学生ともに、「内発的動機づけ」が高く「外的動機づけ」が低い自律的動機づけタイプの子どもが、学校での成績が最もよいという結果が得られました。自律的動機づけタイプの子どもは、“楽しいから勉強する”といった内発的動機づけに基づいて勉強しており、外的な報酬や罰は必要なく、そこから得られる達成感や充足感が報酬となるため、自発的に、そして積極的に学習に従事し、しかも継続的に取り組むことができるのだと考えられます。その結果、望ましい成績につながるものと考えられます。

 またこれに加えて、外的報酬が内発的動機づけを低下させる効果があることを多くの心理学者が認めています。自分から進んで勉強している子に、「100点とったらおこづかいあげるね」というようなことを繰り返していくと、「自分はおこづかいのために勉強をさせられた」という認識から、勉強がおこづかいをもらうための手段になり、「おこづかいをもらえないのなら勉強しない」という自発性を損なう結果につながるわけです。ただしこれは、内発的動機づけが比較的高い子に限られること、親と子の間に良好な関係があれば起こりにくく、またお金やものではなく、ほめ言葉を用いるなら起こりにくいとされています。
 わが子が他律的な動機づけから自律的な動機づけに変わっていくために、親としてできることは何か。そもそも無気力の状態のときはどうすればいいのか。改めて機会を設けてお話ししたいと思います。

スクールFC代表 松島伸浩