松島コラム 『ICT・AI活用の現場を視察して』

『ICT・AI活用の現場を視察して』 2025年12月

 先日、東京成徳大学中学・高等学校で行われた、Apple共催のイベント「Open Day 2025」という公開授業にお邪魔してきました。「幸せな受験ラジオ」にも何度かご出演いただいている和田教頭先生からご連絡をいただき、主に学校関係者向けのイベントではありましたが、ICTやAIがいま、教育の現場でどのように活用されているのかに非常に関心がありましたので、楽しみにしておりました。東京成徳中高は、Appleが先進的なICT教育の取り組みを行う学校として認定する「Apple Distinguished School(ADS)」のひとつで、日本国内では18校が認定されています。
 教育現場へのICTの導入については、文部科学省が2019年に「GIGAスクール構想」を正式に発表しました。これは、「児童生徒1人1台端末」「高速ネットワーク整備」を全国で進めることを目的としてスタートしたものです。背景には、OECD調査※などで明らかになった日本の学校におけるICT利用の遅れ、自治体間の教育格差、さらにはSociety5.0時代に必要とされる学びへの転換があります。その本質は、単に機器を配ることではなく、子ども一人ひとりに合った個別最適化された学びの実現にあります。当初、この計画は2023年度までの段階的整備を想定していましたが、2020年春の全国一斉休校をきっかけに状況は一変。オンライン授業や家庭学習の必要性が急激に高まり、政府は方針を転換。当初3年かける予定だった整備をわずか1年で全国的に前倒しして実施しました。補正予算によって端末・通信環境・教員向け機器が急速に整い、2021年3月には全国でほぼ1人1台端末の配付が完了しました。しかし、現在でも公立校では、「端末は持ってはいるが、授業への有効な利活用は進んでいない」という話を聞きます。教員への研修がまだまだ十分にされていないことが大きな理由です。
 一方、私学では2010年前後から広尾学園や近畿大学附属などが独自にiPadやChromebookを導入し、1人1台体制やBYOD(個人端末の持ち込み)を実施してきました。授業デザインや教員研修も自校で積極的に行い、コロナ初期からオンライン授業へ即時移行できた学校も多く見られました。東京成徳中高も早期にそうした環境を整えてきた学校のひとつです。
 当日は、和田先生の中学3年生の英語の授業を見学させていただきました。和田先生はご自身もApple Distinguished Educator(ADE)の資格を持ち、iPadを使った授業開発やAR教材、生成AIを取り入れた教育DXに積極的に取り組まれてきた方です。

 授業は大きく2部構成でした。
① 関係代名詞・仮定法の単元学習後、「My Dream」をテーマに5分間のライティング。生徒が書いた文章は、和田先生がカスタマイズしたAIを活用して生徒自身が添削し、赤ペンで改善したうえで提出します。
② Global Competence Program(GCP)

 「日本の食べ物と海外の食べ物を組み合わせて新しい料理(Fusion Food)を考えよう」というテーマで、Canvaというデザインソフトを使って新たな料理の画像を生成し、ライティング添削用AIやKeynoteなどを用いながら、次週の発表に向けて原稿やスライドを作成します。
 こうした授業には、いわゆる「チョーク&トーク」と呼ばれる、一方的に先生が話し、生徒がノートに写すという形はありません。電子黒板やプロジェクターが活用され、教材配付はAirDrop。昭和の教室とはまったく違う風景です。そもそも最近の私学では、ホワイトボードはあっても黒板がない学校も増えています。教室の入り口で黒板消しを落とすイタズラも今は昔です。
 和田先生によれば、中学3年生の授業では、「子どもたちに授業を預ける」「表現や価値観の幅を広げる」の二点を軸にしているとのこと。ターム留学の多い学校でもあるため、「言語文化」や「異文化理解」の視点を授業に組み込むことを重視されているそうです。英語を生涯にわたる学びの財産とし、今後の原動力とするために極めて重要な考え方だと感じました。ちなみに、音楽の授業ではAIと作曲アプリを使った作詞・作曲、公民では「The Power of Words」「A Sinking Boat」から言葉や文化の違いが経済活動や広告に与える影響を学び、ソフトを使って広告ストーリーを制作する授業が行われていました。
 こうしたICTを使った授業は生徒の進路にも影響を与えているそうです。iPadを使うことで、「いろいろなことができる」という自分自身の可能性に気づき、新たな夢を持てるようになるのだと思います。
 近い将来、確実にやってくるICT・AIを活用した授業のDX化。公立の小中学校でも探究やICT活用の授業が増えていくなか、入試において求められる力とのねじれ現象が起きていかないか、気になるところでもあります。私たち大人も、教育の変化を正しく理解し、子どもたちの未来にとって本当に必要な学びについて考えていく必要があると改めて感じました。

※OECDが、加盟国および一部の非加盟国を対象に、教育・経済・労働・福祉などのさまざまな分野でおこなう国際比較調査。


スクールFC代表 松島伸浩