西郡コラム 『「内申」の結果は後からついてくる。』

『「内申」の結果は後からついてくる。』 2021年11月

 公立高校の一般入試は学力検査(主要5教科:英語、国語、数学、理科、社会)と内申(調査書)で決まる。内申点は主要5教科と実技4教科(保健体育、技術家庭、音楽、美術)の9教科を5段階評価して点数化したもの。5段階評価は定期試験の結果に加えて、授業態度、発言、発表、小テストや提出物(ノート、ワーク提出、レポート、作品などの提出)、実技テスト(歌唱、運動など)を総合的に判断して教科担任が決める。
 内申は先生によって、また学校によって異なる。5段階評定は、かつては相対評価(5…7%、4…24%、3…38%、2…24%、1…7%が目安)だったが、いまは絶対評価だ。クラスに5をもらう生徒が何人いてもいいことになる。5を何人にも付ける先生もいれば、なかなか5を付けない先生もいる。公平とは言えないが、一発勝負の筆記試験で合否を決めるよりは、中学校での学習や行動を考慮するということで、内申が中学から入学を希望する高校へ提出される。
 5段階評価で、1,2の内申をとると高校入試は不利になる。絶対評価のなか1や2の評価を付けるのはそれ相当な理由がいる。知人の美術教員が態度の悪い生徒に2の評価を付けたら、PTA役員である父親が美術教員を交代させろと猛抗議に来たそうだ。その生徒は成績もよく、偏差値上位の公立高校を目指していた。親は抗議する前に「2なんて俺には付くはずがない」という息子の傲慢さを戒めるべきだ。
 剣道部の主将で正義感の強い生徒がいた。その母親から「どうしても許せない言動をする先生がいて、授業中、息子が反発する態度をとってしまった。定期試験の点数に見合わない評価だった。どうすればいいか」という進路相談を受けた。その生徒を呼び、従順になれとは言わないが習う者としての態度をとること。そして、内申の意味や私立、公立高校入試の仕組みを説明した。十分入試の仕組み理解したうえで、高校入試のために大人しく素直になるか、反発して自分の意志を貫くか、直接、先生に訴えるか、最終的には自分で決めて行動すればいいと話した。反発は不利を招くことが多いが、貫くことで逆境には強くなる。
 内申点を上げるために授業態度をよくする、先生の話に頷く回数を増やす、発言を多くするなど本末転倒の話もよく聞く。過剰なアピールはしなくていい。興味をもって授業を受ける、発言を求められれば発言する、自分の意見を言う、提出物は期限を守る、字は読み手が分かる字で書くなど当たり前なことを当たり前にやれば、分かる人はちゃんと評価してくれる。心配することはない、アピールよりやるべきことをやる方が余計な神経を使わなくていい。中学生を担当したとき、生徒にこう話した。
 東京都の内申点では、実技4教科(保健体育、技術家庭、音楽、美術)の評定を2倍に計算する。5教科×5段階+実技4教科×5段階×2=65点が満点になる。主要教科だけではなく音楽も美術も技術家庭も保健体育も中学校での学習全般を充実させた生徒を求め、私立学校との差別化も図っている。実技教科も含め苦手・嫌いな教科があり、すべての教科にいい評価をもらえず内申が取れないから私立高校を、先を見越して中学入試を、といった選択は短絡的だ。小学校も含め、音楽で歌う、鑑賞する、美術で絵を描く、粘土で作品を作る、技術家庭で料理をする、走る・泳ぐ体育もすべて、純粋に取り組めば自分に向き合う時間があり、おもしろい。他者と比べるから、評価が下されるから嫌いや苦手をつくる。“他人と比べない”は「サボテン」だけでない。そして、いま、知識偏重より、思考力、判断力、表現力が必要とされる。得た知識をどう使うかは感性だ。その感性を磨くという点でも実技4教科はおもしろい。「内申」の結果は後からついてくる。

西郡学習道場代表 西郡文啓