西郡コラム 『「やることリスト」を書いてから自学を始める』

『「やることリスト」を書いてから自学を始める』 2023年5月

 オンラインでつなげば、西郡学習道場の自学室で学習できる。入室した生徒は最初に「やることリスト」を書く。入室時間を記入して、教科(国語・算数・理科・社会)に丸をつけ、やること(テキストなど)、単元・ページを書き、どのくらいかかるか目安の時間を書く。やることが一つ終わるごとに実際にかかった時間を書き、確認の✓(チェック)を入れる。自学を終え、提出するときは「振り返り」を書き、退出時間を記入する。
 何をやるか迷い、決められない生徒は「やることリスト」を書くまでに時間がかかる。指示されることに慣れている生徒、やらされて学習している生徒は自分で決められない。オンラインでは親が指示する声が聞こえることもある。何を優先するかを決めるには、学習する全体像を見渡せること、決断と反省の経験を重ねることが必要で、to-doリストの類は大人でもむずかしい。これから生涯、学習を続けていく小学生だから、いまはうまくいかなくとも「やることリスト」の書き方を学んでいきたい。西郡学習道場は4年生以上の小学生が通っている。最初は「やることリスト」をすぐには書けない。時間や決まった宿題、課題など書けるところから書く。何を先にやるか、どのくらいかかるかを自分で考えて、決める。自学を利用するたびに、「やることリスト」を書く。何度もやってみて、違っていたら、改善する。これを繰り返す。 
 自分がやりやすい学習、漢字の書き取り、理科・社会の「声解き」(問題に対して声を出して解く・重要語句の音読暗記)をリストの先に書いて、取り組む生徒がいる。「こういった学習も、もちろん大切です。やらなくてはいけませんが、自学室には質問に対応する講師がいます。わからない、できないこと、たとえば、算数の課題を先にやったほうがいいのではない?」と声をかけて、優先順位を意識させる。なかには、算数は次の日曜日にやることにしている生徒もいる。今日は大丈夫と、頑なに言い張る生徒もいる。自分はこうしたいといった、意思表示をすること自体は尊重する。本人が困ったときにはじめて、人の話を聞くようになる。
 時間の意識が低い生徒は、入室時間を書き忘れる。何時何分から始めるのか。その課題にどれくらいかかるのか。目安の時間を書く。課題が終わると実際にかかった時間も書く。目安の時間とかかった時間が離れている子には、どうして違うのか考えてもらう。学習した内容からすると、かかった時間が長すぎないか。どうして長くなってしまったのか生徒自身が顧みる。見込みが甘かったのか。集中していなかったのか。生徒が考え、気づき、意識する。次からはうまく書くとは思っていない。何度もやってみて、書き方を覚える。
 指摘されるのがいやだから、間違いをさらしたくないからという思いで、課題をやっていなくてもやったように書く。時間を辻褄が合うようにごまかして書く。これは本末転倒。生徒には正直に書くこと、うまく書けないことが学習です、と事あるごとに言い続けている。正直は、学習の最適化なのです。
 下段に2行、150字から200字程度が書けるスペースがあり、ここに今日の自学の「振り返り」を書く。タッチペンで書く不慣れはあるが、字の大きさがまちまちで、波打ち、ひらがなばかりで書くような生徒は学力が低い。身体の成長(体幹)と学習に対する意識が変わってくると一定の大きさの文字で、等間隔に真っすぐにスラスラ書くようになる。学力も上がってくる。書く字で学力は判断できる。書写の大切さがわかる。
 「算数はいつもけっこう時間がかかるけれど今日はそんなにかからなかったので次はもう少し早く終わらせられるようにしたいです」「いつもよりはやく終わったのでよかったです。これからもがんばります!」このレベルで書く生徒は多い。かんばります、よかったといった決まり文句では「振り返り」は形だけになってしまう。学習の本質がわかっていないので伸び悩む。ここに大きな壁がある。「振り返りには、今日、この自学で何がわかったか、できたか、何がわからなかったか、できなかったか、親や先生ではなく、自分に対して書きましょう。それを書き残すのが振り返りです」と生徒には話している。「振り返り」の意味がわかって書くようになると、学力も上がる。
 学習を自分事として取り組むこと、当事者意識を持って学習することが西郡学習道場の基本方針だ。生徒が学習に対する意識を変えるために、自学に来たら「やることリスト」を書く。

西郡学習道場代表 西郡文啓