西郡コラム 『自学室で、子どもは成長する。』

『自学室で、子どもは成長する。』 2024年2月

 授業では課題が出る。授業の復習、日課の計算、音読、漢字の書き取り、意味調べなど、次の授業までにやり終えて提出する。課題が終わらず、提出できない生徒もいる。授業が終わるとすっかりやり方を忘れた、めんどうだから後まわし、たまってしまった、やる時間がなかった、やる気がないなど理由は何であれ、授業後に自学室に移り(オンラインで自学室ルームへ移動)、やり残した課題に取り組む。やるべきことはやり遂げるという方針で、やってこなかった、できなかった自分に、まずは向き合う。
 自学室でも、よそ見が多い、手が止まった、やった振りをしているなど集中して課題に向き合えないときは、自学室担当が個別に呼んで、いま何をやっているのか、どこまで進んでいるのか、わからないことがないかなど具体的に聞く。この問いかけが大切で、問われることで彼らは少しずつ、課題をやってこなかった自分を顧みるようになる。幼さから抜け出すのも、自分をモニタリングできるかどうか。顧みる意識が根づいてくると、彼らの行動も変わってくる。課題に向き合い、課題を終わらせるようになり、自学室で居残りをする生徒も減ってくる。
 授業開始時、訓話をする。「授業では課題が出ます。次の授業まで一週間あります。どうしたら、課題をやってこられるか一週間の計画をたてて、何をいつやるか、自分で考えてください」。課題を終わらせることは、自分の学習の仕方をまた一つつくることになる。期日までに終わらせることは、これからずっと付きまとう。
 朝道場は、「自分で起きて、6時30分に参加します。画面の中央に、あなたの顔を見せます。発声、音読することに集中します。「サボテン」(日々の計算)に集中します。ごまかしたり、かくしたり、できたふりをしたりしません。正直な子どもが道場生です」を毎回、読みあげることからはじまる。発声練習、音読(四字熟語、詩、400字程度の名文、漢字など)のあとに「サボテン」はタイムを計って行う。自分で答え合わせをして、やり終えた子は挙手ボタン(Zoomの機能)を押して終了したことを私たちに伝える。私たちは「サボテン」と日記(子どもが自分の行動や考えを振り返るために書く学習日記)を確認する。
 一人の生徒が終了の挙手ボタンを押したので「サボテン」を確認すると、途中式もしっかり書いて、すべてに〇を付けている。が、よく見ると問題文と式、答えが合わない。明らかに複写した別のページを貼っていた。(アプリを使って、直接書き込む、紙でやって写真を貼る、どちらかのことで提示する。)「ごまかしているでしょう」とあからさまな指摘はせず、「あなた、違う問題を貼っていない? 確認して」とだけ伝えた。即座に気づき、しまったという表情から恥じるようにうつむき、すばやく貼ったページを剥がして、その子は単純なミスかのごとくにふるまった。そして、私たちに見えるように直接書き込みはじめ、問題文と一致した式と答えを書き終え、○付けをして退出した。
 その子は自学室をよく利用する子ではなかったが、授業日でもないこの日、自学室に入ってきた。朝のことには何も触れずに自学を始めた。自学をする姿に緊張感があり集中して学習に向き合っているのがよく伝わってきた。後ろめたい気持ちから解放されたかったのか、ごまかしの反省を真摯な行動で示していた。
 授業中、取り組むべきことをやっていない、違うことをやっている、何かを見ている、離席して戻ってこない、こういった行動をする生徒を授業担当の講師が注意する。ほかの生徒にも聞いてほしい注意なら授業中でも時間を割くが、その子だけへの注意なら授業の進行を妨げることになる。そんなときは、自学室に移動させる。ほかのことに心を奪われていた子も、授業と違う光景に驚き、我に返る。しばらく自学室で自分のとった行動を振り返ってもらったあとに、個室に呼び一対一で対峙する。なぜ自学室に来たと思うかとたずねると、最初は白を切る、とぼけるが、お見通しだよなと観念したのか、授業から離れたことを認める。「授業を聞いて、その場その時でやったほうが効率はいい。いつかはやるのだから、あとで自分でやるのは大変だよ」と話す。授業に戻る気はあるかと聞くと、反省していますと示すがごとく、細い声で「はい」と、神妙な表情で頷く。自分のやったことを自覚する。

西郡学習道場代表 西郡文啓