高濱コラム 『なぞぺー』

『なぞぺー』2025年6月

 花まる学習会の原点であるなぞぺーの市販版「考える力がつく算数脳パズル なぞぺー」シリーズ(草思社)がまもなく累計100万部を突破しそうと連絡を受けました。ここまで支えてくださったみなさまのおかげです。ありがとうございます。
 創立の頃の思いはよく覚えています。なぜ幼児期の学習教室は計算の反復のようなものしかないのだろう。計算なんて家でちゃんとしていれば誰だってできるし、仮に遅れていても小学校高学年以降に本人がよしと意識改革すれば、あっという間に追いつける「作業課題」である。本当にその人の一生に大差をつけるのは、補助線が浮かぶか浮かばないか、立体を自由自在に想像できるか、論理的に複雑な課題にめげずにエラーなく素直に考え抜けるかというような「思考力」のほうであろうと、なぞぺーを考案しました。同時に花まる学習会も立ち上げたので、当初の数年間は自転車操業。常に新しい問題を作りながら教室に向かうという日々でした。
 思い出は尽きません。最初はメガ思考力ペーパー作戦というのか、山ほどの問題を配って「これをやれば頭がよくなりますから」と伝えていたのですが、失敗。思考力問題を、親、特にお母さんとやると、なんで困っているのか止まってしまっているわが子に、愛あればこそキレて感情的になるかたが続出し、かえってこのような問題を子どもが嫌いになる危険が判明したのです。そこで、「思考力問題は基本的に教室のなかでやりきる」と方向転換をしました。
 他方、こういう問題が好きすぎて余力のある子もいて、家庭用なぞぺーを販売したり、極めて思考力に優れた素質を持つ子向けに「レインボータイム」の問題群を用意したりして、どんな子が来てもその子なりにしっかり伸ばす仕組みを構築しました。
 また途中入社した川島慶は、後継者として素晴らしい問題を作成し続け、私に続いて算数オリンピックの問題群を作ったりしていたのですが、この世界が好きすぎて、「私はなぞペーを世界に届けます」と宣言して独立し、「Think! Think!」や「WONDERBOX」という形で、思考力を鍛えるさまざまなサービスを現在も粛々と世界中に届けています。

 さて途中で気づいたのは、なぞぺーを解くだけではなく、「作る子は伸びる」という事実でした。そもそも5〜6歳で複雑な迷路を頼まれるのでもなく手作りする子(だいたい男子)がいて、その子たちが高校生くらいになると最高度の数学力を持つ子になるという経験則をつかんだことが始まりです。
 それから、多くの働きかけをしました。
 ひとつは、知力育成系の講演会で「最もお金をかけずに最高の数理思考力が伸びる方法です」と言って、ごくごく簡単に家庭で1分で創作できるパズルの作り方を保護者のみなさまにお伝えしました。親子で創作の楽しさを体感してもらいたかったのです。その場では熱心にメモされるかたが大半でしたが、結論は「続かない」というものでした。紙と鉛筆さえあれば子を伸ばす最高最適な問題作成の文化が醸成できるというのに、生活の段取りで精いっぱいの親御さんたちに、そのちょっとした負担の増加は厳しかったのでした。
 そこで、算数オリンピック委員会に頼まれて「幼児期向けの思考力特化教室」であるアルゴクラブという教室を始めたときに、私はボードゲームが脳をすこぶる活性化させるという知見を得ていたので、メインを麻雀のような4人でのアルゴゲームにして、一手一手について「なぜその手を選んだのかの解説」をさせ、その解説に対して議論するなど、知的躍動に満ちた空間づくりを心掛けました。そして、家でやることとして「詰めアルゴ作成」を課題にしたのです。一人3枚×4人の12枚のアルゴカードが並べられていて、うち4枚だけがわかっている状態で、残りの伏せられたカードも論理的に一枚ずつ確定できるような問題を作ってこいというものです。宿題ではなく任意にしたところ、多く作った子たちは、紹介するのも嫌味なくらい、のちに最上位の大学に進みました。そのなかで最もたくさんの問題を作った4人は、ちょうど出版向けに執筆していた『小3までに育てたい算数脳』(エッセンシャル出版社)に「子どもたちが作った問題」として掲載したのですが、数年前の卒業生インタビューで紹介した開成中→東大→国家公務員のSくんもそのうちの一人でした。この問題作成の価値の高さは次世代にも共有されていて、いまもアルゴクラブでは多くの子が手作り問題を提出しています。

 また、20年ほど前、長野県青木村の青木小学校で、月に一度私自身が出かけて、一日かけて全学年に「思考力授業」をおこなっていました。月に一度の授業では真の子どもの力量の伸びには限りがある、どれだけ不在の29日間に着々と伸ばせるかが勝負だ。そして学校の先生の新しい負担を増やすわけにはいかない……。いろいろな制約のあるなかで私が選んだのが「手作りなぞぺー」でした。すでにあるなぞぺーのまねっこで良いので、問題を作ってきてもらう。良い問題は、私が活字化しプリントに名前付きで掲載して学校全体で翌月解いてもらう。すると、担任の先生の情熱によってすごく差が出たのですが、最も熱心に問題作成と提出を促してくださった先生が担当する4年生は、6年までずっと多くの問題を提出してくれ、最後は私もうなるようなオリジナルなぞペーを作る子も出てくるくらいでした。そして、その学年は高校入試(その地方に中学受験をする子はほぼ皆無です)において、前後の学年をはるかに上回る上位校合格数を出したのです。この手法は、のちの公教育支援にも活かされ、佐賀県武雄市の小学生たちも含めて作成された手作り問題は『こどモン』(エッセンシャル出版社)として出版もされました。
 以上、作問がいかに子どもの知力育成に良いかを紹介したのですが、今年度、教室以外の時間を充実させてもらうための方策として、「自由研究コンクール」だけでなく、「作問コンテスト」も始めることにしました。思考力育成という旗を掲げて始まった花まる学習会。子どもたちを本当に骨太に伸ばすには、家でいつも問題作成を遊びとして楽しんでいる習慣を作ることが大きな力になります。どうぞ、親子で問題作成を楽しみながら、良い問題ができたときには応募してみてください。将来活字化してみんなに解いてもらう問題になるのも、大きなやる気アップにつながりますよ。

花まる学習会代表 高濱正伸