高濱コラム 『ハカセは素敵』

『ハカセは素敵』2026年6月

 月刊誌『致知』の企画で教育評論家の親野智可等さんと対談しました。さまざまなイベント等で何度もお会いしていてもじっくり対談するのは初めてでしたが、小学校で23年間教師をやった現場経験から積み上げた言葉は説得力がありました。彼は一学年先輩にあたるのですが、同時代に教育と格闘してきたからでしょうか、ほとんどの教育問題に対する意見がまったく同じと言って良いくらい似ていておもしろかったです。学校と塾という場は違えど、教育というフィールドで行動し思考しつづけるなかで、「同じ山に登ってきた」感じがしました。なんと言っても、現場の小学校で3年生の担任になって4か月もすると「これは親を変えないと意味がない」と気づいたということ、そのために毎回のおたよりに思いを込めたメッセージをコラムとして書きつづけたこと、保護者会を頻繁に開き、学級の報告というより「講演会」をしていたこと、その積み重ねの結果として教育の世界で意見を求められる立場になっていること……。本当に私とまったく同じ流れです。言いたいことがあふれているのでしゃべり出すと言葉がとどまることがないことや、そのこと自体を心から楽しんでいることなども「似てるなー」と感じました。
 その対談で、「AIの革命的進化などによって誰にも先がわからない時代に、親はどこに気をつけて子育てすればよいか」と司会の方から話題が振られたとき、彼が真っ先に提示したのが「ハカセ力」でした。例としてテレビ番組の「博士ちゃん」を挙げ、「他人軸でなくとことん自分の関心を追求する価値」に言及されました。私の近年の講演会をお聞きの方は、私もこの点を強調していることをご存じでしょう。興味深いのは、学校の先生出身でありながら、ハカセ力を伸ばすのは「もしかして学校よりもフリースクールのほうじゃないかな」とおっしゃった点です。学校は旧来のスケジュールでパツパツだが、フリースクールはじっくり好きなことに集中できる時間が取れるという理由ですが、ちょっとギクリとし、またワクワクしました。というのは、ご存じの通り吉祥寺の花まるエレメンタリースクールを嚆矢として5年目、アノネエレメンタリースクールや花まるAIS(All Inclusive School)など、グループ内に多様なタイプのフリースクールが出現していますが、そこでわかったのは学校になじめない「グレーゾーンの天才的ハカセちゃん」が多数存在するし、彼らはそこでは自分らしさを発揮して活き活きと活動できているということです。私は密かに「これをガンガン進めるうちに、『あれ? こっちも新しいタイプの学校と公式に認めるほうが社会にとってよいのではないか』というストリームができて、現在の学校システム(これはこれで約束を守り他人に優しくモラルの水準が高い人を育ててきた。それはたとえば、拾った財布を届ける人がほとんどという世界で稀な国家的文化を形成もしている)は活かす形での『多様な受け皿のある事実上の学校改革』を遂行できるのではないか」と夢想していたからです。
 しかし、○○メソッドを販売するため、名前を売るために、極端な意見を言ったりするような俗人と異なる、いつも子どもや親のことを真摯に見つめバランスの取れたアドバイスを繰り返してこられた親野さんが「フリースクールの可能性」に言及されたということは、「うん、これは夢想ではない。ひょっとしたら夜明けが近いぞ」と直観したのでした。

 さて、ハカセちゃん的な人とは、実は私は大変相性が良いのです。大学から大学院時代に起こったのは「ほかの人とは交わらないけれどもなぜか私に寄ってくる」ちょっと変わった同級生たちが多くいたことです。おそらく私は「配慮」や「思いやり」とかではなく、本当に彼らの光る部分を見て感心していたので、相手も心地よかったのかなといまでは思います。友人の彼女などにしばしば言われたのは「高濱さんのお友達って変な人ばっかりね」という言葉でしたが、私は「どこが変なんだよ、心が美しいんだよ彼らは」と思っていました。その流れなのか、ご存じの通り社員のなかにもリアルハカセちゃんが大勢います。歴史オタクの狩野崇や生物オタクの川幡智佳、読書モンスターの平沼純などなど、各人著書も人気で開花しています。
 そして、振り返るとこの巻頭文にも、図鑑の専門家のお二人の島での没頭ぶりに感動したことを書いた2024年6月末号『見上げる大人』や、つい先日の「ハカセ力の新時代の旗手」とすら感じさせる「シジュウカラに言葉があることを証明した鈴木俊貴先生」への感動を書いた2026年3月末号『目指す大人 ~卒業するキミへ~』など、何度もこの手の人物を題材にしています。「ハカセちゃん」たちの「何かを好きである美しさ」「一心に打ち込み探求しつづけるカッコよさ」「邪心のない素直さ」などに深く魅了されている私がいるのです。

 ぜひお子さまのハカセ力を育てましょう。普段の花まるの授業は、基礎学力や思考力や自己肯定感などを育成することが目的です。没頭する時間が無尽蔵に必要な探求は家庭での自由時間でどう取り組むかという課題になります。そこで、昨年から時間無制限の「自由研究」を推奨し、一年単位で賞を提供するように決めました。ぜひ、どんなシンプルな自由研究でもよいので、取り組んで応募してほしいです。
 それは第一に、現代でメシが食えるようになるハカセ力が身につく道ですし、実は「人としての魅力を増す育成方法」でもあると思います。目の前の他人に気を遣い、器用に喜ばせる駆け引きの力も間違いなく人間力の一つですが、ハカセちゃんたちは単独で成立しているし宝石のように純粋で硬質な魅力を醸し出していると思います。
   研究ってやってみれば無限にテーマが存在することがわかります。「ママの研究」や「消しゴムの研究」といった生活のなかのものから、「宇宙」「星」「昆虫」「植物」といった学術的に価値を持つ可能性のある深いものまで、対象も取り組みの程度も本人が決めること。つまり本当に自由です。ちなみに、私が大手出版社の「夏の自由研究コンクール」の最終審査員をやって数年たちますが、昨年最優秀賞に選ばれた「キノコの研究」の男の子は、あとから花まる学習会の会員だと判明しました。日本一の当事者がすでに仲間として存在します。
 わが子を間違いなく伸ばす自由研究を、親子で楽しみましょう。

花まる学習会代表 高濱正伸