Rinコラム 『させなくちゃ、ではない声かけ』

『させなくちゃ、ではない声かけ』2023年4月

 「本人が『こうしたい(というイメージはある)けれど、どうやったらいいかわからない』と言ってきたとき、いろいろと自分で試行錯誤してほしいと思うのですが、そのときの声かけはどうするのがいいのでしょうか。それとも、いまはまだこちらが『こうしてみたら?』と提案して、やり方の引き出しを増やしてあげたほうがいいのでしょうか?」今回は1年生のお母さんからのこんな質問にお答えしてみましょう。

 「どうしたらいい?」と言われたとき、困りますよね。現場では、まずは「どうしたい? どんなふうにイメージしているか詳細に聞かせて? 一緒に考えるからね」と安心させます。不安や焦りからは、いいアイデアは生まれないからです。そして、このとき、本人にインタビュー形式で聞いていくことで言語化してもらう、ことがカギになります。「なるほど、もう少し具体的に教えてくれる? 一緒に考えよう」「たとえば、どんなものを使ったらいいと思った?」子どもたちは、考えや頭のなかにあるイメージを、整理して、自分で話して伝えようとしているうちに、「あ、いいこと思いついた!」と、結果として自分自身で答えを見つけていくことがよくあります。

 そんなとき、私たちの寄り添い方として大事なのは、「答えを自分で出してほしい」というような、こちら側の価値観を捨てさること。本当に心から「いい案が浮かべばいいね。応援しているよ」という姿勢、とでもいいましょうか。突き放すわけではなく、かといって大人である私があなたの作品をつくるわけではない、「どうしたいのか聞きたいよ、あなたのイメージを共有したい、尊重しているよ」という気持ちです。上や前に立つのではなく、横に並んで、同じものを一緒に見ている感覚です。

 そうすることで、大人が子どもの作品を奪ってしまうようなことにもならず、作者である子どもにとっても、「大人にやってもらおう、考えてもらえばいいや」と投げやりにもならず、対等な関係のまま、意見を共有することができる。結果、当初やりたいと思っていたものではない別の展開になったとしても、子どものなかに、納得感が生まれます。子どもたちが「発想の転換」を体感できる瞬間です。

 他人のアイデアに「いいな」と感じ、ひらめく瞬間、昇華できる経験も大切です。だからこそ、「お母さん、いいこと思いついたよ!」というように、「こうしなさい」ではなく「“お母さんである私は”こんないいこと思いついたけど、どう?」というようなスタンスをとってみてください。それが難しいな、と感じるときは、「こうあってほしい」という理想や、「(何かを)できるようにさせなくちゃ」というようなプレッシャーが、ご自身のなかにあるのかもしれない、と自己対話するきっかけになるかもしれません。
 表面的な「できる、できない」ではなく、もっと深いその子らしさ、感じ方、考え方など、目に見えない部分に注目できるはずです。

【まとめ】
1.提案してもいい:「お母さん、いいこと思いついたよ」
2.インタビュー形式で:言葉にすると、自分で思いつくことがある
3.そのスタンス:こうあってほしい、という価値観の押しつけをしない

インタビュー形式で言語化しながらイメージを整理することは、作品づくりだけでなく日頃の生活のなかでも使えるかもしれませんね。

 今年度も、たくさんの子どもたちとアートを通した教育現場で見えてきたことを、保護者のみなさまとも共有していければと思います。

井岡 由実(Rin)