Rinコラム 『母からもらったもの』

『母からもらったもの』2023年11月

 母はメモ魔でした。幼稚園時代の「えほんノート」や「連絡帳」は、園がおこなっていた取り組みでしたが、母の子育てを通した思いやときに葛藤、幼い私のおもしろエピソードがたくさん残されていました。
 子どもというのは不思議な生き物で、あんなに体は小さく未熟なようでいて、実際には大人と同様の、またはそれ以上の感受性で人を観察し、わかっているものだと改めて気づきます。
 小学生以降、そのような子育てにまつわるメモは存在しないものかと思っていたら、母の遺品を整理していて最近発見したものがありました。それはノートをファイリングし直したもので、妹と私の家庭訪問や個人懇談のときの先生の言葉や、学校に提出するための、“性格について”のメモでした。

7才:いちびり(関西弁でお調子者)。ひとりで何かを作ったり人に邪魔されず本をじっくり読んだりすることを好む。親しい友人がいないように思う。仲間と協調して遊ぶということはできているのか心配だ。決めたことはきちんとやり遂げようとする。
8才:長所…約束を守る。落ち着いて人の話に耳を傾け理解力があると思う。短所…初めてのことに臆病。人前で自分の意見を主張できない。どうして同級生と遊ばないのか?
9才:まじめ。臆病。言われたことはきちんとやるが、だらしない。「人間関係やクラスのみんなとの付き合いなどにおいてよく処理している」という先生からの言葉のメモのあと「家での態度とくらべて先生の評価は良すぎる…が、母親としてうれしく思う」という走り書きが残されていて、思わず笑ってしまいました。“家は羽を休めるための場所だから、外で頑張っている子は家でだらけて見える”の典型のようなエピソード。

 雀の魂百までとはよく言ったもので、確かに私は親しい人の前ではよくふざけて、笑わせることが大好きです。根がまじめで約束を守りたいのはいまもそうで、それは母のいう“臆病”であるからこその裏返しでもあるのかもしれません。まさに、長所と短所は表裏一体。
 日々の充実したひとり遊びの世界は完成されていて、友達がいるかどうかは、私にとって大きな問題ではありませんでした。親しい友人がいるかどうかは、確かに人生の豊かさに直結しますが、幼少期に見つけていなかったとしても心配いらないですよね。世界は広く、出会いはこの先にたくさん待ち構えています。
 このメモのいちばんの発見は、母は私に対して「臆病」であることや、「あなたに友達がいないようだから心配だ」という雰囲気を一切見せなかったことでした。そんなことを心配されているなんて、ちっとも知らなかったのです。
 もしもそういうレッテルを自分に貼っていたら、私は「挑戦することが楽しい」と思う人間にはなっていなかったと思います。
 まさか母はこの自分だけのメモを、いまさら私にネタにされるなんて思っていなかったはずです。きっといま頃、空の上からちょっと言い訳をしているかもしれません。でもいいのです。私は母を感じられて、いまとても幸せですから。
 
井岡 由実(Rin)