Rinコラム 『創作に目的はいらない』

『創作に目的はいらない』2025年5月

「何も考えずにつくりました」の価値
ある小学校の一年生のクラスでのこと。「作者に質問があります!」と手を挙げた子がいました。「どんな気持ちでつくったんですか?」――なんとも素敵な質問です。
すると、その作品の作者である子どもは、まっすぐな目でこう答えました。「何も考えず、おもったままにつくりました」――その言葉に驚いた様子もなく、クラスの子どもたちはそのまま受け止めていました。

大人は、作品や行動に「目的」や「意図」を求めがちです。そのため、こうした発言に驚く先生方もいます。しかし、子どもたちと作品の鑑賞会をしていると、「何も考えずにつくりました」という言葉は意外とよく聞かれるものです。

表現は、言葉を超えた「対話」
表現することは、内なる自分との対話です。作品をつくるのは、何か意味を持たせるためでも、将来役に立つからでもありません。
言葉をうまく操る大人とは違い、子どもたちはまだ自分の未分化な感情を整理し、表現する術を持ちません。だからこそ、言葉以外の表現手段を持つことは、とても有効なのです。

一緒に何かをつくることで、子どもたちは心の葛藤を形にしていきます。描くこと、つくることは、言葉に頼らずとも内面を表現し、確実に何かを浄化していくのです。

創作が心を癒すとき
ある高学年の男の子が、病気で愛犬を亡くしました。アトリエを休んでいた彼に、私は自分が愛犬を亡くしたときにつくった歌を送りました。
それ以来、彼は愛犬のために作品をつくり続けるようになったのです。
あるときは、愛犬の遺骨の前に作品を飾り、また別のときは、愛犬の似顔絵と名前を入れたモビールをつくりました。新年には、命日や散骨の日を書き込んだカレンダーを制作。そして2月の創作では、「(受験勉強の)疲れをすべて忘れる! ぼくの一番好きなところは、(愛犬の)優しい目」といいながら、愛犬そのものを題材にした作品を完成させました。

また、感情のコントロールがうまくできないことに悩んでいたお母さんが、アトリエに参加したあと、娘のかいた絵日記を見せてくれたことがありました。
そこには、クラスで制作した作品の絵とともに、こんな言葉が添えられていました。

「どんなものができるか考えてなかったです。ただ、たのしみました。」

「意味のあること」だけが大切なのか?
現代のような不確実な世界では、「将来何が役に立つか」だけを考えて準備するという昔ながらの思考は、もはや意味をなさなくなりつつあります。

「何の意味があるのか」と追求するよりも、「なんだかわからないけれどおもしろい」と感じる直感に従う力こそ、偶然のもたらす大きな飛躍を生むのではないでしょうか。
そして、その力は、創作や遊びの中にこそ息づいているのです。

井岡 由実(Rin)