Rinコラム 『安心を取り戻すために大人ができること』

『安心を取り戻すために大人ができること』2026年2月

 子どもたちの「こころ」を見るときや、「その人らしさ」を認めながら部下を育てていくとき。私の軸となっている考え方は、20代の数年間に培われました。
 児童精神科医の故・稲垣孝先生のもとで、多くの子どもや青年とその家族に深く向き合った経験が、その原点です。
 彼らが自分のこころを自分で癒す力を取り戻していくその過程で気づいたこと。そのひとつに、「何かをさせようとしない」という態度があります。それは「尋ねる」よりも「聞く力」とも言い換えられるかもしれません。

 子どもの場合は、大人のように言葉を使って思考しませんから、遊戯療法を用います。それは「子どもが遊び尽くすことにつきあう」という営みです。子どもが思いのままに遊び尽くすことで、こころは少しずつ本来の姿を取り戻していきます。

 一方で、上司や親の側に不安が大きいほど、口やかましく干渉しがちになるものです。人を育て導く人ほど、その人自身の心の安定が問われます。自分のこころのクセを知っていることも必要です。

 保護者や保育の先生から「これまでできていたことができなくなった」と相談されることがあります。お友達に意地悪をする、癇癪を起こす、朝起きられなくなる、他責の言葉を放つ、などとその“見え方”(状態像)はさまざまです。

 そんなとき、大人が論理的に解決策を伝えてみても、うまくいかないことが多いものです。
 大人同士であれば言葉でのやりとりは有効ですが、大人のように言葉を使って思考したり思いを整理したりできない年齢の子どもの場合は、不安な気持ちの理由を言えなかったり、イライラしてしまう自分を制御できなくなったりします。

 子どもたちが急に癇癪を起こしたり、いままでやれていたこと・我慢できていたことができなくなったり、まわりの人に優しくできなくなってしまったりするときは、心が不安定でつらくなり、ストレスを抱えているサインです。
 言葉を大人のように扱わない幼児の場合は、身体感覚として安心できることが何よりも必要で、緊急事態であることが多いのです。

 いまこの瞬間に求められているのは、ジャッジもアドバイスもせず、ただ共感し、そばにいてくれる味方なのかもしれません。

 気持ちを言葉で「言わせよう」とする必要はありません。ただ、「この子はいま安心できているかな」「私は大丈夫、と思えているかな」と気にかけてあげてください。

 膝にのせてあげる、一緒に笑う、ハグをする、好物を作ってあげる――やり方はなんでもいいのです。お母さんお父さんが自分のことを気にかけてくれているんだな、とわかるだけで、まずは安心につながるはずです。

 子どもたちは、守られていて安心で、自分のことを理解してもらえている実感があれば、自分で解決できる力をもっています。そして「わかってもらえた」と感じた相手にこそ、自分の気持ちを打ち明けてくれます。

 心のケアとして最良のものは、助言やなにかを「させよう」とするのではなく、ただ味方でいることです。

 子どもがあなたに「遊ぼう」「見て」としきりに訴えてくるとき。それはストレスが溜まりはじめているサインかもしれません。「いまは忙しいからあとで」と言わねばならないときほど言われることが多いのは、あなたが一番忙しいときに、自分のほうを優先してくれるかどうかを知りたいのです。

 わたしは「見て!」には「見る!」とまずは一言答えるようにしています。それだけで、ホッとする子はとても多いものです。

井岡 由実(Rin)