花まる教室長コラム 『親友のつくりかた』

『親友のつくりかた』2019年11月

 今年の夏も、たくさんの出会いがありました。
 2年生の女の子Aちゃん。2日目の夜、みんなと離れた場所でシクシクと泣いていました。聞くと、一緒に過ごしている班の仲間と上手くいかないことがあった様子。何気ない一言で喧嘩になったり、班の中にグループができ始めていたり。「解決してすっきりしたいけど、私にはどうしたらいいかわからない…。」彼女は悩みを話し始めました。
「友だちは簡単にできるよ。だって毎年サマーに来てるから。友だちの作り方は知ってる。『お名前なぁに?なにが好きなの?』って話しかければいいんでしょ。でも…学校の友だちに比べると、また会いたいって思えないの。」
 かわいい悩みだなと思いました。同時に、頭の良い子だなと思いました。

 サマースクールを終えて帰るまで、彼女に残された時間はあと1日半。その時間をどう過ごすか。どう過ごしたいか。彼女の挑戦が始まりました。
 私から彼女に伝えたことはひとつだけ。友だちと親友の違い。それは、心をひらくことができるかどうか。素直に心を込めて伝えれば、気持ちは必ず伝わる。けれども、Aちゃん自身がまだシャッターを閉めていれば、その壁は決して越えることができない。
 そこからの彼女は、葛藤しつつもよく頑張ったと心から思います。
 3日目。食堂などで顔を合わせるたび、目配せをして「頑張るよ」とうなずきます。夕方には「友だちできたよ!」と嬉しそうに話していました。けれどもその後、お風呂の中では「うまくいかないー!アニマルに謝らなきゃー!」と泣いたそうです。
 いろいろな想いが入り混じり、葛藤もしながら…。彼女のサマースクールは、ついに終わりを迎えました。彼女にとって、この3日間はどのような日々だったのでしょうか。楽しめたかな?納得できるものだったのかな?親友はできたのかな?
 その答えは、彼女の心の中にのみあります。けれど、結果によらず、いずれにせよたくさん考え、悩み、経験した数日間には違いないでしょう。

 今年の夏、最後のコースでのことです。8人の女の子班。一見仲は良さそう。けれども、班の中で少しずつグループができ始めているとのこと。行動がゆっくりな低学年の子たちが置いていかれ気味になり、高学年のメンバー主導で活動が進んでいました。
 2日目夜の、お楽しみ会発表前。準備はどうか聞くと、順調だと言います。班全員が前向きな気持ちで出来ているかを聞くと、彼女たちは言葉に詰まりました。「それは、ちょっと…。」思い当たる節がありそうです。そのうえで彼女たちに、この4日間をどう過ごしたいか。残り2日間で班のメンバーとどうなって帰りたいのかを問いました。長い沈黙の後、全員がそれぞれ自分の言葉で「仲良くなって、笑顔で帰りたい」と答えました。
 そこで私は、数週間前に会ったAちゃんの話をしました。友だちの作り方は上手だったこと。親友の作り方について2人で考えたこと。それをもとに最後の日まで諦めず努力したこと。4日間、何気なく過ごすこともできるけれど、どうなりたいか強く想って過ごせば状況は変わること。
 すると突然、6年生の女の子が泣き始めました。
「私はいつも、想いを言葉にできない。怖い…。でも…このチャンスに、変わりたいと思う。」
 そして迎えた最終日。彼女にインタビューをしてみました。その言葉をそのまま載せると、「言葉遣いや接し方が変わった。キツくなくなった。わかんないときはピリピリしちゃってたけど、それもみんなで変わった。低学年のTちゃんも、できないときは『手伝って』と言えるようになった。嫌なことは嫌ってちゃんと言える、親友になれた」とのことでした。彼女たちなりに消化して、結果につなげたようでした。

 いつかAちゃんに再会したとき、伝えたいことがあります。あなたの一言で、あなたの頑張りで、勇気を、ヒントをもらって頑張れた人がいるということ。
 どんな顔で聞くのだろう。喜んでくれるかな。自信を持ってくれるかな。想像しながら、いつか彼女と再会する日を心待ちにしています。

花まる学習会 北澤優太