花まる教室長コラム 『泣き虫みーちゃん』北澤優太

『泣き虫みーちゃん』2022年1月

 長女。優しい。しっかりしている。
けれど、いざというときに自分の意見が言えない。そして甘え下手。
 そんなみーちゃんと私の、8年間の物語。

 ― 年中 ―
 思考実験になった途端、「やったー!えのぐだ!」と席を立ち、みんな一目散に走っていきます。みーちゃんは全員が立ち上がったことを見届けたのち、すべての椅子をきちっとしまってからこちらへ。優しい、みんなのお姉さん。「ぼくも見たい!わたしも!」そんな押し合いにも決して入ってくることはなく、最後尾のかろうじて見えるかなというポジションを見つけ、そこからじっと様子を見ていました。みーちゃんにも聞こえるように、いつもより少しばかり説明の声を大きくしながら、なんとももどかしかった私の気持ち。

 ― 年長 ―
 毎週の花まるを誰よりも楽しみにしていたみーちゃん。教室が見えると、毎回全力で走ってきます。周りの世話を焼くお姉さんっぷりは変わらず。少しずつ自信もついてきたようで、手を挙げて発表する機会も増えました。そんなみーちゃんが、ある日暗い顔をして教室に。どうしたのかと聞くと、「かわいいかっこうをしていったのに、ようちえんでだれにも言われなかった…」とシュン。うまく言えなかったか…と、私もシュン。その後、教室でたっぷりと髪飾りのことをほめられて、帰りにお母さんを見つけての第一声は「ふふん、今日もほめられた♪」もうすっかり女の子です。

 ― 1年生 ―
 国語大会でリーダーになりました。さらにMVPに輝きました。驚いた様子のみーちゃん。「おめでとう!」の声にも、はにかんで下を向くだけでした。翌週の授業で突然、みーちゃんが「MVPのこと、作文に書いていい?」と聞いてきました。書いた作文は『MVPをとったこと、うれしくてずっとかんがえていました。』ちょっと自分を出せるようになったのだなと、嬉しくなりました。

 ― 2年生 ―
 少しずつ素が出るようになりました。自分自身で「こうしたい!」というこだわりや気持ちが出てきて、私にも少し口ごたえをするようになりました。ほめられたことに対しても、首を横に振るようになりました。自我が芽生え、「実は私はこうしたい」という気持ちが出てきた証ではあるのですが…。意固地になって融通のきかない様子に、親としてはさらにイライラが募る。そんな悪循環の時期でした。
 けれど、「みんなのお姉さん」だったことだけは変わらず。初めて花まるに来た子が隣に座ると、自分のことはほったらかしで一生懸命にお世話をします。少し教室に早く来ては、年中クラスの片付けを手伝います。年中の子に「おねえちゃん」と呼ばれ、「はーい!」と嬉しそう。ちょうどこの頃、お母さまより「引っ込みがちだったわが子が、自分から代表になり大勢の前で発表できるようになった」という報告がありました。なんと運動会では、「代表の言葉」を立派にやり遂げたそうです。感動して涙が出ました。

 ― 4年生 ―
 受験部門のスクールFCへ異動したみーちゃんに、久しぶりに会いに行きました。涙涙のお別れをして以来の再会。びっくりする姿を思い描いていたら、「やめて見ないで」想像以上の冷たい反応…。

 ― 6年生 ―
 出会ってから8年。スクールFCのスタッフがつないでくれたZoomの画面上で、受験会場に向かうみーちゃんの姿を見ました。大きくなったなぁ。立派になったなぁ。そんなことを考えていたら、画面の向こうのみーちゃんは、私たちの姿を見て大号泣でした。見た目は大きくなって、立派な6年生だけれども…。どこか脆くて繊細で、そして泣き虫。私には、幼いころのみーちゃんの姿が重なって見えました。

 いつも彼女に伝えていたことがあります。
 それは「あらゆることにおいて、ほめられるためではなく、自分のために、人のために努力できるのがみーちゃんだ」ということ。実はこれが、1年生のときにMVPに選んだ理由でした。
 そんな彼女の行く末が、多くの光に照らされますように。あの頃、小さな手を握りしめながら何度も伝えた魔法の言葉を、みーちゃんの心に届けます。

「大丈夫。みーちゃんならできる。」

花まる学習会 北澤優太