花まる教室長コラム 『この夏、夢がひとつ叶いました』北澤優太

『この夏、夢がひとつ叶いました』2022年10月

 私たち花まる教室長にとって、教え子が帰ってくるのはとても嬉しいことです。用事もなくふらっと教室に立ち寄ったり、弟や妹の迎えに来たり、合格の報告をしに来たり。突然の訪問に驚くことも多いですが、その立派な姿を見ることで頑張るエネルギーをもらえます。彼らの存在は、私の夢そのものです。けれど一つだけ、まだ叶っていない夢がありました。

 はじまりは2か月前。本部に届いた一通のメールでした。
「高校生になったら、高校生リーダーになりたいとずっと思っていました。優太先生の教室でした。」

 送り主はHちゃん。私が担当した教室の一期生です。授業後、毎週のように友達や弟と園庭で遊んでいた様子が、色濃く記憶に残っています。私の腕にぶらさがってグルグル回ることが大好きで、何度やったか数えきれないくらい。楽しそうに、よく笑う子でした。その一方で、当時の私のメモには「自信がない。学校でも手が挙げられないことが悩み。人と話すのが苦手だと本人は言っている」と書かれていました。心を許せば笑顔を見せるのですが、そのハードルが非常に高い。慣れた場所とそれ以外では、別の顔があるようでした。そんな彼女から連絡が来た時点でまず驚き。そして、高校生リーダーになりたいと思っていたなんて思ってもみなかった。「どんなリーダーになるのかな」と楽しみにしていたら、縁あって、彼女は私が責任者を務めるコースに参加することに。またまた驚き!夢にまで見た、リーダーになった教え子と行くサマースクール。ずっと続けてきてよかったと、感慨深いものがありました。

 出発の日。彼女は緊張した面持ちで現れました。背は伸び、大人びてはいましたが、当時の面影が残っています。
「今日からよろしくお願いします。正直昨日の夜、優太先生にメールしようか何度も迷ったけど…。いや、ここでしちゃダメだ。頑張ろう。と思って来ました」
覚悟を決めて、この日を迎えたようでした。前日の夜。実は私も「H、いよいよ明日からだね。緊張していないかい?楽しみにしているよ」とメールを送ろうとして、やっぱり止めました。普段、前日リーダーにメールを送ることはありません。大丈夫かなと心配になってしまう親心。いくつになっても、教え子は教え子ですね。
 そのときに聞いた高校生リーダーとしての彼女の目標は、「人の目を見て話すことを心がける」でした。Hちゃんらしい目標だなと思いつつ、私もその背中を押そうと心に決めました。

 最終日、上野で子どもたちを見送ったあと、彼女の目からは涙がこぼれていました。流れはじめたら止まらない涙。「大変だったかな…?つらかったかな…?」。涙の意味がわからず不安に思いつつも、彼女の言葉を待ちます。2泊3日を終えた彼女から出てきた言葉は、こうでした。

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 1日目は、周りを見て行動することの難しさを痛感した。子どもたちにいろいろなことをわかりやすく伝えるために、もっと語彙力が必要だと思った。「これ見てー!」などと、子どもたちから話しかけられたことが嬉しかった。遊んでいる子どもたちに、どう話しかけていいかわからなかった。
 でも2日目は、「質問をたくさんする」ことを心がけ、子どもたちと仲良くなれた。1日目に言われたとおりだと実感した。子どもたちがご飯を幸せそうに食べる姿を見たとき、とても嬉しかった。怖がりな子が、飛び込みに挑戦する姿を見たとき、嬉しかった。挑戦する気持ちや勇気に感動した。かっこよかったし、勇気をもらえた。1日目に比べ、みんなの笑顔が増えたことが嬉しかった。

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 感じたことや悩みが、変わっていったことがよくわかります。涙ながらに感想を述べる彼女を見て、子どもたちだけでなく「彼女も」成長して帰ってきたのだなと思いました。そして参加後の子どもたちからのアンケートには、「高校生リーダーになってみたい!」という言葉がありました。きっと、Hちゃんの不器用ながらも一生懸命頑張る姿が心に残ったのでしょう。

 たとえどんなことであっても、「応援する人が頑張ったこと、成長したこと」は心から嬉しいもの。つながり続けることができる、日々誰かを応援することができる。つくづく幸せだなと感じます。教育という仕事を選んでよかった。この夏、夢が叶っただけでなく、私も大きなご褒美をもらいました。

花まる学習会 北澤優太