花まる教室長コラム 『彩り豊かな紙飛行機の世界』喜瀬真帆

『彩り豊かな紙飛行機の世界』2026年5月

 年中の思考実験「紙飛行機」でのことです。紙飛行機を折って飛ばすという、至ってシンプルな実験。授業前に予習として自分でも作ってみたのですが、こんな機会でもなければ、大人になって紙飛行機を飛ばすことなんてなかなかないものです。先生としての面目を保つために私が一番遠くまで飛ばさなければと意気込み、どうしたら飛距離を伸ばせるかを童心にかえったように研究していた……つもりでした。

 いざ思考実験の時間になると、ある子は真下に向かって紙飛行機を思い切り叩きつけました。やはりまだ「正しい紙飛行機の飛ばし方」はできないかと思いつつ、「前に向かって飛ばしてごらん」と言おうとした矢先、彼女は満面の笑みでこう言いました。
「見て見て! 先っぽがこっち向いた!」
前に向かって飛ばしたはずの飛行機が、自分のほうを向いて着陸していることが、おもしろくて仕方ない様子です。私の考えていた「正しい紙飛行機の飛ばし方」は、ここでは何の意味もなしません。彼女は終わりの時間になるまで、ひたすら先端がどこを向いて着陸するかを楽しみつづけていました。
 またある子は、「先生、競争しよう!」と誘ってきました。「せーの!」のかけ声とともに、なるべく遠くへ飛ぶよう大人の本気を見せますが、彼女は自分の飛行機がどんなふうに飛んでいったのかだけをキラキラした眼差しで見つめていて、私の飛行機なんて視界に入っていません。
 どの教室でも、子どもたちはどこまで飛んだかよりも、「ぐーんとこっちに曲がってきた!」「廊下の外まで行っちゃった!」など、どんなふうに飛んだかを報告してきます。「あんなところまでいった!」と嬉々として言ってくる子もいますが、それはあくまでも飛ぶ様子のひとつにすぎず、飛距離にこだわる子はいませんでした。
 一方、遠くへ飛ばすことだけを考えていた私の世界は、なんと狭かったことでしょう。先生としての面目を保つために……なんて意気込んでいた自分が恥ずかしくなりました。

 花まる学習会では、子どもと大人はまるでオタマジャクシとカエルくらいにまったく別の生き物だと言っていますが、この思考実験で改めてそれを体感しました。幼児の特性のひとつに、「見立てがない」というものがあります。たとえば家を出る時間から逆算して支度ができないなどがこれにあたり、この特性に頭を悩ませる保護者の方も多いと思います。しかし見立てがないからこそ、子どもたちにとっては失敗もないのです。
 こんなふうに紙飛行機を飛ばしたい、そのためにはどうしたらいいかを研究するもよし、どのように飛んだのかという結果の観察に心を躍らせるのもよし。子どもたちが、ありったけのエネルギーを紙飛行機に注ぎ、まさに十人十色の楽しみ方をする姿は、それはそれは美しいものでした。

 子どもが大人と同じように行動することは難しいけれど、逆に大人が子どもと同じように心を動かすこともまた、なかなかできないなあと感じた一日でした。
 各々が当たり前のように個性をもっていて、目の前で起こる現象に対して素直に感動できる子どもたち。その個性と純真さを、引き続き守り育ててまいります。

花まる学習会 喜瀬真帆