高濱コラム 2009年 12月号

米国発の歴史的経済危機でスタートし、インフル騒ぎに翻弄された一年。良き教育ということに集中していれば道は開けると長年歩んできたけれども、今年ばかりは経営という面でピンチになるかもしれないと、春先に危機感を感じました。応援してくださる方々のおかげで、命脈は保ちましたが、不況はいよいよ厳しさを増して景況感も悪化しているようです。

これを書いている今、「財務相は、国の2009年度税収が当初見積額に比べ約9.2兆円落ち込み、36.9兆円にとどまることを明らかにした。これに伴い、国債発行額は過去最大の53.5兆円に膨らむ見通し。税収の40兆円割れは1985年度(38.1兆円)以来、国債発行額が税収を上回るのは終戦直後の46年度以来63年ぶりという異常事態となる。」というニュースも飛び込んできました。

こういうとき、石川遼君の活躍を見ると、まるで泥沼に一輪の蓮の花を見出したような光を感じます。18歳にして、今まで見たどのプロスポーツ選手よりも言葉がしっかりして、おだやかな品格と自分を高める志を感じます。世の中の厳しさが、彼の特別をより特別に磨き上げている面もあるかもしれません。「あなたには、希望のにおいがする」という歌謡曲がありましたが、私たちが遼君に見るまぶしさに言葉をつけるとすると、やはり「希望」でしょう。

「大変だ、大変だ」というプロパガンダに負けないためには、強い意志が必要で、それには希望に満ちた人と接することが、力になります。11月のことですが、ある一年生が自分のはもちろん、さりげなく他の人の靴も並べなおしてあげているのを見ました。「あれ、えらいねK君」と一言言うと、ちょっと照れていました。

翌週、授業準備をあれこれやっている私の眼の端っこに、視線を感じます。ん?と目をやると、K君が、私がそちらを見たのを確認したが早いか、大仰に靴を並べなおしてくれています。メッセージはシンプル。「先週嬉しかったな。また誉められたいな」。私は歩み寄って誉め、さらに授業開始の挨拶のときに、「ちょっとみんな聞いてくれるかな。K君がね、みんなの分まで靴を並べてくれてたよ。拍手!」と言いました。すると彼は、瞳をギランと輝かせ、紅潮したもうこれ以上ないほど良い表情をしてくれました。

授業後、片づけをしながら、講師がみな、K君のことについて、なんて良い笑顔だったんでしょう、素晴らしいなあと、すこぶる盛り上がりました。それはいつにない華やぎで、今言いたいことは、彼に教育上良い言葉かけをしたように見えて、実は大人たちこそ彼の得意満面の笑顔から、勇気と希望をもらったということです。

子どもたちと毎日接することのできる人は幸福です。私自身、様々なことで煮詰まったときでも、無邪気にどん欲に遊んで遊んでとせがんでくる子どもたちと、いっとき過ごすと、帰りには、「これからいいことしか起こらないような気がするなあ。」というおめでたい気持ちになります。「『つ』のつくうちは神の子」とは、こういう実感の積み重ねから生まれた言葉かもしれません。

新年を迎えます。おかげさまでアルゴクラブを通じて、北海道から九州まで全国に「花まるメソッド」が広がりましたが、花まる自体をもっともっと良いものにして先頭を走って行きたいと思います。保護者の皆さまが安心してお子様を預けていただけるよう、花まるも遼君に負けない志を持ち続け精進していきたいと思います。よろしくお願いいたします。よいお年を。