高濱コラム 2010年 1月号

もう10年ほど前になりますが、母校熊本県立熊本高校の卒業生で、当時東大理系の2年生だった若者4人と、組織を立ち上げました。ABCといって、高校の先輩である社会人の方々をお呼びして座談会を開き、職業の魅力や社会の厳しさを語っていただこうというものです。若手の官僚や弁護士からスタートし、当時のリコーの会長だった三善信一さんや、帝国ホテル社長だった吉村勲人さんなど、錚々たる方々も二つ返事で来て、熱く語ってくださったものです。

初代代表の4人は、一人は金融、一人は証券、一人は化学の研究者としてアメリカで、一人は心臓外科医として、立場を築きがんばって働いています。もともと皆魅力的だったのですが、今社会人として輝いている彼らが異口同音に言うのは「ABCはすごく勉強になった」ということです。親でもない、メディアを通じたフィルターのかかった話でもない、同窓の後輩だからこそ言える本音トークが、心を揺さぶったようです。

それは代々続き、私は企画書を書いた生みの親として、代表の学生が変わるたびに食事をごちそうしながら、歴史を話してあげることが恒例の行事になっています。今年、その会食の場でのできごとです。

現代表である男の子二人も一ツ橋と東大の4年生で、ユーモアセンスにあふれ可愛らしいのですが、新代表として来た二人は迫力がありました。一人は女性で高校時代囲碁の全国大会で優勝し卒業式で答辞を読んで現役東大という、スーパーレディ。もう一人は一浪後東大に入った青年M君。このイケメンM君が、いまどき珍しい子でした。

立ち居振る舞いからして妙にひきつけるオーラを放っているのですが、バイトをしても弱冠20歳の学生のくせにコンビニを6店舗統括する立場になるくらい仕事ができる。高校時代サッカーで鍛えた体力で、東京から熊本まで自転車で帰るという冒険心もある。一番感銘を受けたのは、「教育でも野望があるんです」と言いだしたときです。

「お金がなきゃ、予備校や塾の良い先生の授業を受けられないって、おかしいじゃないですか」と言うので、よくある青臭い話かと思いきや、彼の実際の行動を聞いて驚きました。ニコニコ動画やmixi(ミクシィ)を活用して希望者を募り、色んな理由で望む教育を受けられない10代の若者たちに、全くの無料で、skype(スカオプ)を利用した個人授業をしている というのです。全国で8人も教えていて、一年目から医学部に行く子も出そうだし、来年は東大も出したいと言っていました。教え方にも自信があると豪語していました。

そこにあるのは志のみ。見返りなど全く期待していないし、意味のあることがやれることが嬉しいし彼らが次の代の教え子につないでくれればいい、ということでした。

心意気や良し!社会人の厳しさを知り家族を持っては、同じような時間はとれないし考えも現実的になっていくでしょうが、若者たるもの、後先考えずに思ったことに突っ走るこのような行動力を持ってほしい。田舎育ちで熟成された骨太の公共精神を見て、日本の未来は明るいかもしれないと感じました。

面白かったのは、私も含めてそこにいる5人とも外遊びばかりの少年少女期を過ごしたことです。4人ともゲーム全盛の時代に育っているのに、1台も持っていなかったし、庭先ではカゴに突っかえ棒をつけて雀を生け捕りしようと悪戦苦闘し、山の中を走り回りターザンごっこをし秘密基地をつくる日々だったそうです。お父さんお母さんの教育方針がしっかりしていたのでしょう。