高濱コラム 2010年 4月号

花まる学習会創立時に2年生だった24歳の教え子T君から、メールが届きました。「you tubeの情熱大陸で近況伺いました。お元気そうでなによりです。老けないですね笑」と始まる文章は、いかにも初期の教え子らしい距離感。ロンドンで海運業の仕事に就いてがんばっていること、若いなりに悩みは尽きないこと、この夏に一度帰国の予定なので時間をとってほしいことなどが綴られていました。

面白かったのは、追伸として「J君、いい男になりましたね!」と書かれてあったことです。J君とは番組の中で密着取材を受けていた高校受験の男の子のことです。このことこそを言いたかったんだなと感じました。自分も小学生から花まる、高学年からスクールFCで学び浦和高校に合格したということでも親近感を持ったのでしょうし、大学生時代に小学生のJ君を教えたときのあどけなさの記憶と、青年らしいたくましさもたたえたテレビでの姿のギャップに、「育てる側の感懐を抱いたのだと思います。教え子が、年少の教え子を教えてくれて、それぞれが魅力的に育っていく。長いドラマをみんなで編み込んでいくような、しみじみとした喜びがあります。番組の中で「子どもと芸術は一生を懸けるに足る」と述べました。そのときは「毎日可愛い。毎日感動できる」という意味で言ったのですが、このように長い育ちの物語を見られることも、教育の仕事ならではの素晴らしさです。

J君はちょっと不思議な何かを持った子です。撮影が始まったころに、会社の私の部屋を多少とも片づけなければと色々動かしていたときに、書類の間から一枚の写真がハラリと落ちてきたのですが、それが私と彼のツーショットでした。小学校低学年時代の確か釣り遠足だったと思いますが、私の膝に抱っこされて赤ちゃんのような顔で笑っている写真。「まさか、今回はJがテレビに出るってことかなとひらめいたのですが、結果はその通りでした。

ネットでは書きましたが、同時進行で筑駒中に通った子や開成高校に通った子、浦和高校にもっと楽々と合格した子など、同時進行で複数の子が密着されていたのですが、放映されたのは彼だけでした。みんな可愛いし魅力的な子ばかりなのですが、何故だか彼に白羽の矢が立ったのです。

J君は合格確実圏にはいませんでした。内申のせいです。五分五分という感触だったのですが、神風とはこのことでしょう、今年県立入試が40点満点から100点に変更されたのと同時に、「思考力重視」に画然と変化したのです。つまり、まさに「なぞぺー」で鍛え上げた思考力が、断然有利に働く入試に、今年変わったのです。数学が難しかったからこそ、差をつけ合格できたのでした。運を持ってる子だと思いました。

番組ではやけにまじめそうに撮られていましたが、むしろ彼の特徴はユーモアセンスが抜群なところだし、弟の面倒をよくみるなど家族思いである点です。「体だけは鍛えておけ」という教え通り高校ではラグビー部に入るそうですし、サマースクールの高校生リーダー(無料で連れていくからアシスタントとして働けという枠)としても、仲間とみんなで参加するそうですから、まあここまで縁があった以上、ビシビシ鍛えあげて、いい男に育てたいと思います。

さあ、新年度が幕を開けました。花まる学習会は、何年たっても「出会えて良かった」と思っていただけるよう、子育ての悩みに寄り添い、一人ひとりの育ちの物語を応援する組織であり続けたいと思います。どうぞ、よろしくお願いいたします。