高濱コラム 2010年 6月号

この数日の間に、立て続けに、教え子の映画や舞台を観てきました。

一つは映画「トロッコ」。芥川のトロッコを下敷きにはしていますが、全く異なる内容で、夫のふるさと台湾に夫の遺骨とともに里帰りする、若い母(尾野真千子)と息子二人の物語です。8歳の兄で、事実上の主役が、原田賢人君。いくつか芸能の仕事もしていることは知っていましたし、スクールFCの特算の授業で数年前「いま、トロッコっていう映画を撮ってるんだ」と直接聞いていましたが、できあがった作品を観て、こんなに素晴らしい作品に出ていたのかと驚きました。

テーマが現代を射ぬいています。典型的な孤母として追い込まれて不安な心で、でもがんばって子育てをしている母(尾野真千子さんが見事に演じています)。その犠牲者としてどんどん可愛くない子どもになっていく長男。ところが、台湾という異国で地元の子と交わり変化が起こり始めます。そしてトロッコにまつわって、母から見ると行方不明という事件が起こるのです。帰りを待つ母、幼児ゆえに泣いたり駄々をこねたり手を焼く弟を、叱りつけなだめ勇気づけながら、なんとか手を引いて帰りつく兄。兄としてがんばりにがんばりぬいた彼を待ち受けていたのは、弟を抱きしめながら自分を叱責する母。そして、映画史に残るのではないかと思われる賢人君の言葉…。

映画にドップリかぶれ、年に100本以上観て、感想文を書きためていた20代のころ、あるとき振り返ってみると、自分のつけた5つ星映画の大半が、子どもがらみのもの(「小さな恋のメロディ」「大人は分かってくれない」「海辺のポーリーヌ」「海と太陽と子どもたち」etc)だと気付いたものですが、あの頃観ていたら、間違いなく同じ数の星をつけたでしょう。尊敬する侯孝賢監督のカメラで有名な李屏賓による映像は、台湾の生活・人情、緑の風景を、美しく描いていました。子育て中のお母さんの心にうるおいを与える映画だと思います。ぜひ観てみてください。
さて、舞台というのは、宝塚歌劇団。花まる卒業生が、タカラジェンヌとして初めての東京公演があるというので、日比谷に見に行きました。小学生時代は、普通以上にはできるのに、秀才の誉れ高い「できる兄」と比べられて、こと勉強となるとうつむき加減の様子であることが彼女の印象でした。不憫な彼女に、どう自信をつけさせようかとお母さんがよく思案していらっしゃったものです。

中学入学後しばらく音沙汰がないなと思っていたら、お母さんから宝塚音楽学校に入学が決まったとの連絡が来て、それはそれは驚いたものです。あれから2年。15歳という最年少での入学、女性社会、厳しい指導、きっとつらいこともたくさんあったのでしょうが、颯爽たる立ち姿で登場し、少々背中を曲げた小学生時代の彼女しか知らない私からすると、まさにメタモルフォーゼ。蝶に変身した姿を見ているようでした。もちろん一年生。セリフなどない端っこの役ですが、それでも、あの子がこんなに華やかな場所までこぎつけたのかと思うと、舞台の後ろに出てくるたびに「立派に歩いているじゃないか」と感じては涙し、ダンスを見ては「よーく足が上がっているじゃないか」と涙していました。孫の運動会で涙するおじいちゃんのようでした。
二人とも、これからどうなってほしいということはありません。ただ、自分の決めたフィールドで、社会と渡り合い、自分の道をしっかり歩いていってほしいと思います。