Rinコラム 『感ずる心を育てる』

『感ずる心を育てる』2010年7月号

ある日3年生のS君から手渡された小さな紙切れ。そこには、彼のお母さんによる手書きの詩が、ありました。

 

「時計」
あなたが生まれた その日から
時計があわてて 動き出す
チクタク チクタク チクタクチ
チクタク チクタク チクタクチ
あなたが巣立つ その日まで
時計よ ゆっくり 動いてね

 

私が教えるFCのクラスでは、6月から詩の授業が始まりました。子供たちは指定された表現技法をいれた詩を創作する詩人となります。「ことば」に特化したクラスですから、生活、家庭での会話を通した、言葉への意識を高めることが、子供たちの語彙力を養うことに直結します。いつも保護者の方には、授業の内容や宿題を、一緒に家でも楽しんで取り組んでほしい、と伝えてきました。「息子に託しました!」と走り書きされたその小さな紙片からは、お母さんも楽しんで一緒に作ってくださったことが伝わってきて、うれしくなりました。

同じ日、同じクラスで、「今週の土曜日は満月だから、先生は満月をテーマに、体言止めを使った詩を作ってみようかな」と言うと、「満月って?いつ?」「毎月満月はくるよ」「うそだー!」「本当に?」と声が上がりました。このあたりでは見える空も小さくて、なかなかお月様が見えないのだろうか、とも思いながらも、横道にそれて説明を加えました。

折しも、花まる年長さん授業では、星座や夏の大三角について学習する機会があったため、星空を見上げて星を見てくることが宿題だった子供たちにも、今回の満月は月食がおこるということや、新月とは何かということなどを話すと、子供たちは目を丸くして聞き入っていました。

「学問への入り口は、いろいろなものに感じ入ったり憧れたりすること」とは、上里龍生氏のことばです。子供たちの場合、「いろいろなことを感ずる」ことが「ものごとを知る」きっかけや土台になり、「ものごとを知ろうとする努力」が、「学問」へと発展していきます。だから周りにいる私たち大人が、彼らが興味を持ったものが何か、気をつけてみていてあげること、折にふれて語りかけてあげることは、大きな意味を持っています。子供たちの、学びの心はもう発芽しているのです。思ったり、感じたりしたときがまさに学ぶとき。そういう意味で、感ずる心を育ててあげることこそが、主体的な学びにつながる、いちばん大切なことだと思います。

大自然の中で、仲間とともに感ずる心を育てることのできるサマースクールは、すばらしい経験になる。同じことです。さあ夏至も過ぎ、もうすぐ七夕。今宵は、家族で空を見上げる時間をもってみてはいかがでしょうか。一句、詠んでみても楽しいかもしれませんね。