高濱コラム 2010年 10月号

花まる学習会の目標は、「メシを食える人」「モテる人」です。前者は要するに自立するということですから理解してもらいやすく、最近出版した「我が子を『メシが食える大人』に育てる(廣済堂出版)」についても、教育新聞始め複数のメディアで話題にしていただきました。

「モテる人」というのは、若いときに異性に好かれるということだけではなく、むしろ哲学を持ち意欲と集中力にあふれ周りを思いやり良い経験と実績を積み、年をとればとるほどに人が集まってきて重要視される人のことです。なぜこれを二番目の目標にしているかというと、ただ食えるだけではなく、人に信頼され人の役に立つことこそ幸せだと思うからです。

先日ある会社の設立記念パーティで、席が近かったので王貞治さんと話す機会を得ました。私にとって「少年時代のヒーロー」は王さんでした。父親と入る風呂でラジオを流しっぱなしにして、王選手の打席になると固唾を飲んで聞きいっていました。とにかくたくさん打席に立ってほし いので、いつも「相手が点を一点いれてくれて、9回も満塁になれば、王に回るな」とシミュレーションをしていましたし、秋には「あと△試合だから、○打数○安打なら首位打者は当確だな」と打率計算を繰り返していました。

そんな本物のヒーローと話すのでガチガチでしたが、情熱大陸を「すごいですね!」と誉めてくださり、「王さんの打率を計算していて算数が得意になりました」と言うと、向こうから握手を求めてくださり、「おたがいがんばりましょう」と声をかけていただきました。来賓挨拶の言葉で王さんが人生を振り返り「白い球を追いかけて」と言うだけで目頭が熱くなり、「仕事っていうのは、人の役に立つことが大事だ」とおっしゃったときは、「ですよね!」と叫びたくなりました。とにかくたくさんの人が群がってきて、王さんこそは究極の「モテる人」だなと思いました。
一方でこういうこともありました。その主催の会社と本格的に「よし組もう」と思い切ったのは、役員の女性がいたからです。毅然として判断明確、薫風が吹きぬけるようなハキハキした語り口、こういう人がナンバー2なら間違いないと思ったのでした。

その彼女が、挨拶の言葉でこうおっしゃいました。教師や看護師といった職を経て、転職を考えていたときに、大手企業も来てくれという話しだったのだが、当時小さかったこの会社の35歳の社長を見たときに「ビビッと来たんです」と。何か面白いことを一緒にやれそうな希望のにおいを感じたそうです。

確かにいまどき珍しいくらいに男くさく野心に満ちていて、生命力あふれている彼は、やはり「モテる人」です。その女性自身もそう。複数の「モテる人」がそろうと、会社は大発展するんだなとも感じました。

最近では、チリの落盤事故で、食料もあまりなく助けてもらえるあてもない中で、「必ず助けは来る。希望を失うな」と励まし、32人もの男たちを統率し、「船を最後に降りるのは船長だ」という言葉とともに救出の順番をみなに譲ったルイス・ウルスアという人物は、まぶしくて直視できないくらい輝いて見えました。荒くれ男たちがつき従う魅力をもった彼も「モテる人」です。

強い気力と人間力にあふれ、リーダーシップをもち、誰かにビビッときてもらえるような大人に、子どもたちを育てたいですね。