西郡コラム 『あなた次第』

『あなた次第』2011年10月

花まる学習会のつくば教室に、中学生限定の「西郡学習道場」がある。現中学3年生の保護者、生徒の方々が小学6年時に、中学生になっても花まるに残れないのか、花まるの中学部はないのかという相談を花まるの講師に持ちかけられたのを契機に、講師が有志で中学生の受け皿を企画した。花まる学習会に中学部はない。スクールFCを出すほどの人数でもない。そこで、花まるグループとして企画の趣旨に最も近い道場を花まるつくば教室に作ることになった。会社が主導して中学部を作ったのではなく、保護者の願いと小学低学年から子どもたちの成長を見守り続けた講師たちの思いが作った教室でもある。今でも保護者の中には、道場所属という意識は少なく、「花まるさん」と呼ばれる方もいる。花まるからの継続。

つくばの講師も保護者の要望を受けての、消極的な動機で中学部を企画したのではない。茨城県・つくば市も学習塾が乱立し、多くの中学生が塾通いをしている。大概、学習塾は有名高校の実績を誇り、集客を目指す。すると塾に通うだけで成績の出ない生徒は軽んじられる傾向になっている。そんな中で花まるの学習法を継続した生徒たちは、成績のいい悪いに関係なく、学習の自立を目指し、学習に直面し自分で考え学習する。そして分からないことをすぐに聞けるような環境を準備したい。また学習面でだけではなく、思春期を迎える彼らが心の悩みを相談できる、生徒本位の学習塾はできないものか、という設立趣旨だった。

私も保護者向けの説明会や生徒たちに向けた特別授業をやっているが、保護者も生徒も熱心に話を聞いてくれる。講師たちとも月に二回程度ミーティングを行い、授業の進捗、情報交換、行事の確認等をする。そのミーティングで、驚かされるのは講師たちが長期にわたり一人ひとりの成長をしっかりみていることだ。あの子は小学生低学年からみているが、ここにきて随分成長した。学習に集中できるようになってきた。あの子は学校の人間関係がうまくいっていないようだ、今度話を聞いてみようと思う。クラブ活動で忙しく、疲れているようだ。といった一人ひとりの情報が学習だけではなく、心身の問題にも細やかだ。小学校低学年から中学まで、長期展望に立って指導するメリットは大きい。

生徒たちだけではない。保護者の方々との距離の近さもある。花まる時代からの保護者の交流の継続は、講師に何でも話ができる環境になっている。中学生にもなると親との会話を避けるようになってくる。学校の先生でもなく、親でもない、生徒たちが話せる大人として彼らに話ができる。「心の問題を取り除き、学習に集中できる環境にすることが私たちの仕事だとつくづく思いました」というつくばの講師の言葉がこの教室を端的に言い表している。学習は、所詮、自分がどうするという世界。自分がどうするという環境を整えることが最も重要なことだ。道場の心得に「逃げない、正面から取り組む」という一行がある。自分の学習に直面すること、させることが私たちの“指導”なのだ。「花まるさん」も学習道場なのかもしれない。

中学生になると、定期試験があり、成績が点数化され、学年順位がだされる。定期試験は学習の復習テスト、授業内容をどこまで理解しているか、定着しているかをみるテスト。それに、授業中の態度、意欲を評価される。音楽、美術、技術家庭、保健体育の4教科は実技も評価される。この評価は教科担任の判断。さらに、提出物の有無、出来が加味される。そして、9教科、それぞれ5段階の評価が下される。この5段階の評価と特別活動(クラブ活動等)で調査書(内申)が作られる。公立高校入試は入学試験の点数と点数化された調査書(内申)で決まる。

中学で成績を出すのは決して難しいわけではない。公立中学での学習は、教科書レベルの内容を網羅なく咀嚼する学習、だから持って生まれた能力より勤勉さが求められる。授業を聞き、ノートを取り、理解し、復習する。宿題、レポート類はきちんと出す。当たり前のことをするだけに、自覚が大切になる。大人の入り口にたつ彼らは、大人が口を挟むことを嫌がる。大人の監視は希薄になる。自己管理、自分でこなしていくかどうか。学習の自立が出来ているかどうかで成績も決まってくる。成績がいいということは、選べる高校が増えるということ。自分の将来のために高校の選択肢を増やす。

クラブ活動はきつい、授業中眠たくなる、ゲームもしたい、遊ぶ行動範囲も広く誘惑も多い、趣味にも耽りたい、多忙な中学生に学習をどこまで中心に見据えていられるか。「中学の成績を上げることは難しいことではない。行きたい高校に行くことも可能。すべてあなたたち次第、あなたたちの手の中にあり、それを握り締めるどうか、あなたたち次第」

花まるから継続して、つくば教室に通う中学生も三年生になる。残り数ヶ月で高校入試を迎える。これまで通っていただいた感謝とお預かりした責任を感じる。彼らが希望の高校に入学できることを願う。