高濱コラム 『うまくいかないこともある』

『うまくいかないこともある』2013年6月

 明日は息子の運動会。PTA会長ではあるけれど、確か挨拶はいらなかったよなあと思っているとき、その電話はかかってきました。聞きなれたその声の主は、息子が在籍させていただいた幼稚園の理事長先生。「明日はよろしくお願いします!」という穏やかな言葉を聞きながら、血の気が引くような感覚に襲われました。ダブルブッキング。講演会については、会社としてHPを通しての一括窓口は持っているのですが、長い間のなじみの園などは、携帯電話に直接かかってくることもあるのです。そう言えば数ヶ月前、確かに電話があった…。

 仕事三昧を許してもらっていますが、学校の運動会は家族で楽しむ数少ない大切な機会という位置づけでこれまでやってきたのに、これはまずい。しかも悪いことにその日は結婚記念日でもあったのです。ためらいの後、逃げてもいいことはないからと、メールを送りました。件名は「お詫び」。しかし、何時間たっても返信がありません。妻が最大級に怒っている証拠です。

 仕事を終えて深夜帰り着くと、目も合わせずに壁を向きながら妻は電話をしていました。いったん二階に着替えなどを取りに行き、降りてくると笑顔に戻っています。何という奇跡。あとで聞いたら、電話の相手の親友Tちゃんが、不満をたっぷり聞いてくれたうえに「あんまりいじめないで」と言ってくれたのだそうです。「Tちゃんに感謝しな」と言って受話器を渡されたので出ると、彼女は、ささやく声で「高濱先生、がんばってください」と言ってくれました。

 そう言えば彼女は6年生の息子を花まるに在籍させていて、先日の講演会にも来てくれたばかり。お母さんたちへの応援のメッセージを受け取ってくれたばかりでもあり、味方をしてくれたのかもしれません。それにしてもたった一人のTちゃんがいなかったらどうなっていたことか。トラブルの最高の解決法は間に入ってくれる一人がいることだと思いますが、まさにその例でした。ちなみに、翌日の講演会は父親向け。自分の現実は棚に上げて「孤立してイライラしがちな妻を支えるのが夫の仕事です」と、のうのうと語り、「まるでコントだな」と思いながら、幼稚園からわが子の学校へ向かいました。

 さて、失敗と言えば、今年のサマースクールでは多くの方に哀しい思いをさせてしまいました。全く行けない子が800人も出てしまったのです。これについては説明をさせてください。決して「生徒数が増えたから」ではないということです。これまで20回のサマースクールの参加率は、在籍数200人を超えたあたりから、ずっと3割程度だったのです。もっとも多い年でも4割弱。だから昨年の時点で、今年の会員数を想定し(それはぴったり当たりました)、最高でもその4割までは絶対連れて行ける枠組みを準備していたのです。ところが蓋を開けてみたら申し込み率46%。6%分がまさに800人だったのです。

 これについては、来年度は絶対に今年のような失敗をしないようにと、すでに議論を重ね改革案を作り上げました。私の責任で来年は必ず変えますので、お許しください。それにしても、サマースクールに参加させたいから入会させたのにという保護者の方の子を思う気持ち、子どもたちの哀しみを想像すると、いたたまれない思いです。本当に申し訳ありませんでした。

 そんなこんなで、珍しく足取り重く向かった教室。私は、3年生のH君に、「ごめんね」と謝りました。ヤンチャを絵に描いたような炸裂する少年の輝きに満ち、サマースクールが最も似合う彼は、妹も含めて兄妹両方とも抽選に落ちたのです。
すると、いつもはすぐに戦いを挑んでくるはずのH君は、「別に」と言いながら、5分以上も私のお腹に顔をピッタリくっつけてしがみつき、足は太ももにからみついていました。「悪かった悪かった」と思いながら、重たいダッコチャンを抱えたまま仕事を進めました。しかし今思うと、動物的な勘の鋭いH君は、どこか気落ちした私に感づき、そのぬくもりで慰めようとしてくれたのかもしれません。

花まる学習会代表 高濱正伸