西郡コラム 『子どもたちへの講演3』

『子どもたちへの講演3』2013年11月

想像する、想像力、という言葉を聞いたことがありますか。想像というのは、実際には経験していないこと、現実には存在しないことを心の中に思い描くことです。想像力は想像する能力のこと。似た意味の言葉としてイメージという言葉があります。では、想像力を試してみましょう。目を閉じて、私のいうことに集中して聞いてください。いいですか。明日、学校の1時間目の授業は何の科目ですか?何が必要ですか?教科書、ノート、鉛筆、消しゴム・・・。2時間目は?3時間目は・・・?では、カバンに明日必要なものを入れましょう。教科書、ノート。筆記用具には削った鉛筆が入っていますか?消しゴムは?赤鉛筆は?他に、習字道具、体操着、給食袋も必要なときもあります。

目を開けて。明日、何があるか、必要か、ちょっと思い浮かべる、これが想像することです。明日何があるか、毎日、当たり前のことにしてしまう。習慣にしてしまう。想像力のトレーニングになります。そして、あなたは忘れ物をしないようになります。想像するというのは、難しいことではありませんね。次、何がある、明日、何がある、と思い描けばいいのです。

もう一度、目を閉じて、サイコロを思い浮かべてください。「1」が書いてある面を正面にすると反対の面は何になります?そうです、「6」です。「1」の上の面が「2」なら、底の面は「5」と思い描けますか?すべての辺の長さが等しい正方形、これは平面の図形、つまり紙の上、縦と横の関係の図形です。それに奥行きが加わり、すべての面と辺が同じ、立方体、サイコロになる。立体の図形です。これも皆さんは想像して頭の中で立体の図形、サイコロを頭の中で思い描いています。

花まるの授業で、カチカチカチと鳴らしてキューブキューブを組み立てますね。具体的な像が頭に残る。頭に残った像はいつか蘇らせることができる。小学校高学年、さらに中学になって図形の問題を解くとき、頭の中に残った像は算数の立体の問題を解くときの手助けになります。算数の問題が解けるだけではありません。本当は逆で、算数の図形の問題を考えるということは、大人になって生きる力として必要な、思い描く力、想像力を鍛えているのです。

国語でも想像力を鍛えています。5字、7字、5字。計13字の最も短い文、俳句を知っていますか。作者がある光景に感動する、その感動を13字の文字に託したのが俳句です。文字のスケッチです。絵を思い浮かべてみましょう。では、俳句を読み上げますから、一枚の絵ハガキのように、俳句の絵を思い浮かべてください。「長々と 川ひとすじや 雪野原」皆さんはどんな絵を思い浮かべました?雪野原、そうです、一面が雪、真っ白です。そこに一本の鉛筆で線を入れる。これが雪に覆われていない、川ひとすじ。それが長々と続いている。そこには、その光景に感動した作者がいるのです。文字を、絵に描く、映像化してみる、これも想像力です。俳句に限らず、文字という文字、文という文を想像して読む、もちろん明日の国語の教科書からです。

ところで、ゲームやテレビの映像はどうでしょうか。皆さんが思い描かなくても、勝手に向こうからあなたの頭に入ってきます。ゲームなら指先を動かして場面もスピーディーに展開します。手と目と頭との一体感があり、ただ受けているだけではない、かもしれません。それでも、映像は作られたものがあなたの頭に入ってくるだけです。文字、文を読んで何もないところから描く、作られた映像をテレビやゲームから受ける、どちらが、あなたにとって想像的だと思いますか。勝手に刺激的な絵が頭に飛び込んでくる、楽ですね。自分で描くのは、もちろん、面倒。でも、あえて自ら、自分で描くから、作るから、あなたの想像力は鍛えられるのです。何度も言うようですが、習慣にしてしまえば、当たり前にしてしまえば、面倒は消えます。本を読んでいろんな世界を想像することの大切さがわかってくれたでしょうか。

もう一問、今度は犀、動物のサイです。頭の中に思い描いてください。実際に描くのは難しいまでも、犀の絵が頭に浮かんできましたか?どこかの動物園で見た犀、どこかの動画で見た犀が浮かんできましたか?どこかで見た絵、まったく何の手がかりもないところから描くのは困難、なにかで、どこかでみること、これは経験です。ときには、全く見たことがない人がユニークな犀を描いているかもしれません。これは空想、妄想ですね。実物どおりに描くことが正解ではありません。自分の想像力をどこまで高められるか、広げられるかです。

私にはもう一枚、犀の絵が浮かんできます。ムパタというアフリカの画家が描いた犀の絵です。もう20年以上前に見た一枚のポスターの犀の絵ですが、その絵が経験として頭のどこかに残っている。ムパタの犀の絵は面白いとインパクトが強かったから、感動したから頭の隅にへばりついていたのでしょう。皆さんもこれからいろんな経験をした絵が自分の頭に残ります。そして、あなたの頭に残った絵があなたの次の想像力の手助けになります。例に出したキューブキューブもそうです。いろんな本を読むこともそうです。次の想像のためです。だから、いいものをたくさん読んでください、見てください、聞いてください、触ってください、心を揺さぶられてください、感動してください。なにがいいものなのかは、皆さんの心が揺さぶられるものは、感動したものはいいものです。自分自身が決めていいのです。酷い、悲惨な絵も映像も、あなたにとっては“いい”ものに入ります。あなたの心が揺さぶられたならば。夕暮れの空を教室の窓からふと見上げたら、雲がオレンジ色でした。毎日毎日見る夕暮れに、こんな感動的な絵があったのか、と驚きました。日常の些細な光景にも心を揺さぶるものはあります。何に感動するかは、あなたのセンス。そして、それがあなたの人格をつくります。