花まる通信 『次こそは ー自分の頭で考えるー』

『次こそは ー自分の頭で考えるー』2014年8,9月

「どうしてこんなことになったの?」
「遊んでいてくっつけちゃった…」
講師と5年生A君の目の前に置いてあるのは、ページがのりづけされたサボテン。とても器用にくっつけられている。たいしたものだ。
「何をして遊んだの?」 
「…」
「どうしてはがそうと思わなかったの?」
「…」
「そもそも白紙のページを開いて遊んだりするの?」
「…忘れちゃった…」
記憶にない。どこぞの政治家のような言い訳。「言い訳するにももうちょっとあるでしょ!」と心の中で思う。
 そこからは特に問いただすことなく、講師は静かにのりをはがす。それをバツの悪そうな顔で見ているA君。「僕がやります。」それも口には出せない。
 授業が始まる。心なしかいつも以上に一生懸命だ。自分がやったことを悔やんでいるのか、取り戻そうとしているのか、そんな風に見えた。
―――授業後
「(宿題を)忘れた事は事実なわけだから、全部やってから帰ってもらうよ。」
「はい…」
再び落ち込みだすA君。急に現実に引き戻されてきた彼。「これ全部やるのか…」
そんな声が聞こえてくるようだ。しかし、講師に譲る気は全くない。
「やったことの責任は自分でとれ。」言葉には出さず、全身からメッセージを放つ。 
 覚悟を決めてサボテンを一問一問解いていく。いつのまにか教室に残っている生徒はA君だけになった。全部終えてそそくさと帰ろうとする。
「正直に言ってくれないか?」
少しの逡巡の後、黙ってうなずいた彼。
「のり付けしたり、言い訳を考えたりするの大変じゃなかった?」
「はい…」
「普通にやってきたほうが簡単じゃなかった?」
「はい…」
「じゃあ、やってくる方がいいよな!」
「はい!!」
最後、力強く返事をした彼の眼に迷いはなかった。彼の中にもう答えは出ていた。
―――
 高学年ともなれば、こういうことはよくあることです。こういった時に、すぐに叱りつけて、答えを与える事は簡単です。でもそれは、一時的にやれるようになっても、今後の彼のためにはなりません。
 「生きる力」とは、自分の頭で「考える」ことです。失敗してもいい。宿題を忘れてごまかしてもいい。繰り返してもいい。でも次は、次こそは、と、自分で考えて良き答えを出していけるように。
「種は芽が出る。芽は伸びる。そういう風にできている。」
 私たちは信じて子どもたちを支え続けます。
 最後に…A君のお母様に今日の一件をお知らせしたとき、
「実は…(のり付けの)現場を見ちゃったんですよ。も~~~~、本当にここ(喉元)まで出そうになったんですけど!!先生の(見守る)言葉を信じて止めました!!」
 普通だったら絶対言ってしまう現場。今日一番のファインプレーをしたのは、講師でも、A君でも、私でもありませんでした。A君のお母様にただただ感謝です。

佐藤 暢昭