花まる通信 『「よかったね」はまほうの言葉』

『「よかったね」はまほうの言葉』2015年7月

ある教室で三年生を教える機会がありました。
 H君に「宿題を出してごらん」と声をかけたのですが、なかなか出してきません。「何かあるのだな、全部終わっていないのかな」と思いながら待っていると、三回目くらいの声掛けでやっと見せてくれました。しかしその顔はずっと下を向いています。テキストを開いてみると、その理由がわかりました。あさがおもサボテンも全ページ「真っ赤」 お母様の字で「字が汚い!」と、赤ペンでチェックが入っていました。
 「ああ、これは大変だ」と思いました。
 何が大変かって、お母様も、H君も、「二人とも」苦しくて大変な気持ちになっているのだろうなと思ったのです。
 お母様は、H君が将来困らないように、今、先生に叱られないように、良かれと思ってして下さっているのが、その一生懸命な添削から伝わってきました。けれど、見せるのを嫌がったH君からは、「どんなに直されても、自分は字が汚いし!」と「字」への苦手意識が伝わってきましたし、「どうせいくら頑張っても、先生も字が汚いって言うに決まっている」と注意されることを覚悟しているかのように見えました。
 私は、お母様の頑張りも、H君の頑張りも受け止められたらと思い、次のように伝えました。
 「お母さんからのチェックがいっぱいだね!これでどこを直せば良くなるかわかるから『よかったね』」と。すると、パッとH君の顔があがりました。そこですかさず、「サボテンは字が汚くてもいいんだよ、計算のスピードを鍛えるものだから。でも、終わったら最後にきちんと見直しをしよう。そこであまりにも読めない数字があったら直すこと、そうじゃないとバツになってしまうからね。今日は見直しの仕方もわかって、『よかったね』」と伝えました。
 そう伝えただけなのですが、その後の授業でH君が書いたサボテン・あさがおの字は、とてもキレイで、H君はH君なりに丁寧な字を一生懸命書いてくれたのだとわかりました。そして私からは最後に「絶対キレイに書けると思ってたよ。一生懸命頑張ればできるところを見ることができて『よかったな』」と伝えました。
 その日のH君の作文にはこう書いてありました。
 「自分は一りん車ができるけど、字がきたないです。でも今日は、先生に『きれいな字だ』と言われて、字がうまくなったんだと思います。またこれからずっと字がうまくなるといいです」と。
 字がきれいに書けるようになるための答えがここに書いてありました。

「自分なりの頑張りを認めてもらえた」こと。
 「一生懸命頑張ればできる」という肯定感は、「やってみよう」につながり、またどう頑張ればよいかを、「よかったね」につながるかたちで伝えたことで、「プラス」のイメージで頑張ることができたのだと思います。
「よかったね」は誰にでも使える、頑張る力を湧き起こす「まほうの言葉」 大好きなお母さん、お父さんからの「よかったね」の威力は絶大でしょう。マイナスをプラスに変えるまほうの言葉。使っていただけたら幸いです。

松田 な奈