西郡コラム 『タロージー、山村留学を支えてきた人』

『タロージー、山村留学を支えてきた人』 2015年11月

花まるがプロデュースしている北相木小学校は児童数の減少で統廃合の問題が毎年持ち上がっていた。小学校がなくなると村の文化が廃れる、何とか子どもたちを集めたいという思いから村が山村留学センターをつくり子どもたちを預かってきた。この山村留学センターに私も昨年から月に一度、泊まっている。花まる授業のある前日、村や学校と小学校のプロデュースについて話し合い、その日は山村留学センターで子どもたちとともに過ごす。
 朝は6時に起きる。八ヶ岳に向かって「おはようございます」の大きな声の挨拶から体操をして、季節にまつわる話をスタッフから聞く。朝食をとり、自分たちで片づけをして学校へ向かう。学校から帰ると、宿題、読書など思い思いの時間をすべて自主的に過ごすが、ここにはテレビも携帯電話もない。洗濯も自分のものは自分でする。洗濯をしなさいという指導はない。洗濯物をためればすべて自己責任、自分が困って初めて動く。お風呂に入り、18時の夕食、そして掃除。ここでも分担を決めるが細かい指導はない。掃除をしていなければ、どこが汚れているかはすぐにわかる。みんなが困る。自分も掃除しなければいけないと気付く。強制的に指導することは容易い。しかし、それではその子の自主性は育たない。自ら気づいて行動する。山村留学センターの方針は一貫している。
 一定の期間、農家にも泊まる。センターでの宿泊と農家での宿泊を繰り返すのも子どもたちには貴重な経験だ。子どもたちはよく「タロージー(タローおじいさんを親しみをこめて子どもたちはこう呼ぶ)の野菜はおしいしいよ」と私に教えてくれる。子どもたちが持ち帰った野菜を食べさせてもらったが確かに上手い。宿泊を受けいれる農家も高齢化が進み次第に減ってきている。今年「タロージー」も子どもたちの受け入れをやめた。「タロージー」の奥さんがなくなったのだ。山村留学の設立から二十何年子どもを受け入れてきた。山村留学センターの廃止の危機の際も「タロージー」は山村留学を応援してきた。しかし、奥さんがいなくては子どもたちを受け入れられない。
 村の創生会議(政策委員として高濱代表を招聘。弊社・新井と私が代理出席)に「タロージー」も出席していた。会議で様々な“創生案”が出されるが、独自性がなく、借りもの、とってつけたような案ばかりで多少うんざりするなか、「子どもたちは『タローさんの野菜はおいしい』といっていました。何年も何年もこの村に留学してきた子どもたちは同じ思いをしてきたと思います。そして一生忘れられない味だと思います。この村がふるさと創生を考えるなら、ここから考え直すしかないのではないでしょうか」、と私は提案した。「タロージー」もこれまでの熱い思いを語りだした。

北相木村の山村留学センターでは、来年度の募集を行っています。
詳しくは、長野県北相木村山村留学センターのHPをご覧ください。

西郡学習道場代表 西郡文啓