高濱コラム 『素敵なパパ』

『素敵なパパ』2015年12月

 秋の保護者面談。ちょっとした思い出の日になりました。世の中の潮目が変わっていることを明確に感じたからです。それは「あ、父ちゃんたち変わってきてる」という手応えです。子どもたちの家や学校での様子を始めたくさんの質問をしたし、面談の相手は全員お母さんだったので、お母さん自身のことも聞きました。10人余りですから膨大な情報量です。しかしそれらが林立する樹木群だとすると、その隙間あるいは奥に確実に「意識の変わってきているお父さん群像」が見えたのです。

 A家:1年生と4年生の兄弟。弟君の漢字テストの勉強について、こんなペースではテストの日までに間に合わないとお母さんは先が見えるから、どうしてもイライラするしうるさく言ってしまう。するとお父さんがいつも、ちょっととぼけたなごむ感じで「大丈夫、大丈夫」って言ってくれ、そうすると何かすっと楽になるのだそうです。
 B家:1年生と2年生の姉妹。仕事の都合で家を空けることも多い父。「遊んでくれる時間はあるんですか」と聞くと、「家にいるときは、いっつも3人でじゃれあってますね」という答え。その言い方のニュアンスに信頼を感じました。さらに困っている子への親切な行いができることを褒めたとき、こう言われました。「ああ、T(一年生の娘)が優しいのは、主人に似たんだと思います」
 C家:1年生弟と4年生姉。笑顔の絶えないお母さん。休みとなると父と姉弟で外に遊びに行くとのこと。そして大きな瞳が何か言いたげだなと感じたとき、「先生、実は最近、毎朝家族4人で走っているんです、私もですよ!」との報告。私の「母親だからできること 3」の講演を聞かれたのか本を読まれたのか、夫が家族の信用を勝ち取るかなり成功確率の高い方法です。「それは幸せですね」と聞くと、満面の笑みで「幸せです!」と一言。
 D家:3年生の姉妹。居酒屋をやっている父と外で働く母。時間のやりくりは相当チームワークが無いと難しいだろうと思いながら聞くと、夕ご飯はお父さんが仕事前に全部準備してくれるそうです。それだけでも外で働くお母さんにとって嬉しい事例だなと思ったのですが、面白かったのは父と娘の関係です。3年生となり思春期の入口にさしかかった娘は、最近になってわざわざ露骨に父の前で「ママじゃなきゃ嫌だ」と言ったりするとのこと。お父さん可愛そうだなと感じたのですが、お母さんは「でも、(お父さんは)女系家族で、女のそういう言動には慣れてるんです」とおっしゃいました。それは何というか薫風が吹き抜けるような言い方でした。夫を信じて他を見てない感触というのか、温かかったのです。
 E家:3年生男子。学校でトラブルの真っ最中。どちらかと言うと強いグループにやられているというケース。しかし本人が先生にきちんと訴えることもできているし、学校に行くのを嫌がっているのでもないし、私は問題ないなと感じました。母さんはというと、胸をかき乱され心穏やかではなかったそうです。ところがお父さんが、じっくり妻の言い分を聞ける人で、聞き終えたあと、「もうちょっと様子見てもいいんじゃないかな。まあ本人の前でギャーギャー言わない方がいいよ」とアドバイスしてくれたそうです。「そういうときどんな気持ちですか」と聞くと「ホッとしますね」としみじみと一言。
 F家:6年女子、3年男子、さらに幼稚園の弟君1名。ここは4月にお父さんが亡くなった家庭です。本当に子育てに協力的で、野外などの遊びも上手なお父さんで「F家は、理想の家庭だよね」と私たちも言っていたものです。それが突然のこととなり、哀しみはいかばかりだったか、外部からは想像もできません。ところが半年たち、その面談では立ち直ったニュアンスが感じられたので安心しました。そして最近のおうちのこととしてこんな報告をされました。団らんのとき「今お父さんがいたら、絶対こう言うよね!」「言う言う!!」と盛り上がるのだそうです。命ある間、誠心誠意を尽くしたお父さんは、死してなお確実にみんなの心に生き残り、家族を元気づけることすらできるのでした。

 いかがでしょうか。大げさに父として頑張るぞと力んだりせず、命の中心で太陽のように輝く母をたんたんと支えているお父さんたちが見えますよね。この日の帰り道は、ずっと胸の中に熱い感触が残りました。

 つい先日、スタッフも含め女人禁制の「父親だからできること」の講演会がありました。15年前くらいになるか、昔は面談でも母側に夫への不信感を訴える方は多かったし、お父さん向け講演後の感想には「母サイドに立ちすぎだと思います」といら立った感想や、「塾の先生なのに、なかなか良いことを言っているなと思いました」と対抗意識を示すコメントもありました。理解し合えない夫婦がたくさんいたのです。
 ところが、潮流は変わりました。私の年齢がお父さん世代よりかなり上になったということもあるのでしょうが、近年では講演のメッセージを素直に受け取ってくれる方が増えました。そして、前述の面談では、薄々と感じていた変化について、確信を持てたのです。「夫婦はこのままではいけない」という意識を持ったお父さんたちは着実に増加しているということ。

 それにしても、直接触れるお母さんたちからこのような言葉を聞くことは、本当に幸せです。一人のお母さんを安心させ家族を幸福にしたいという夫の思いは、昔も今も変わらないのでしょうが、以前に比べて明らかに素敵なパパが増えています。今回の講演後に、FBで届いた一通のメッセージを紹介しましょう。
 「本日の講演会ありがとうございました。大変勉強になりました。先生のお話をお聞きしながら、妻のためにそして息子のためにしてみたいと思うことをいろいろ考えました。息子とは小6の夏にいっしょに富士山に登る約束をしました。これからも親として教師としてがんばりたいと思います」

花まる学習会代表 高濱正伸