高濱コラム 『チャンスをつかむ力』

『チャンスをつかむ力』2016年3月

年末に行われた、音の森スタッフと子どもたちによるクリスマスコンサートは、素晴らしいものでした。スタッフはみな花まる学習会の教室長も兼ねているので、タケノコシート(成績表)を作成する時期でもあり繁忙の中のイベント実行でした。オーケストラのスコアを書く担当の坂村も例外ではなく、相当に時間に追われ、結局、3曲分は当日配布になってしまったそうです。
 音の森の中心である笹森への友情だけでミラノから駆けつけてくれた指揮者を始め、世界中から集まった演奏家たちでしたが、本番の朝の会場は、一触即発というくらいのピリピリした状態だったとのこと。ところが、最終リハーサルで子どもたちがドヤドヤと入場してその姿を見せると、演奏家たちの表情が化学反応のようにサッと穏やかなものに変わり、後傾していた姿勢がシャンとして、やる気に満ちた顔つきに変わったのだそうです。神の贈り物のような子どもの声すら、騒音と受け止める人も多い中、やはり芸術に生きる演奏家たちは、子どもの存在に無条件に感動できるこっち側の人間なのだと分かるエピソードで、嬉しくなりました。
 子どもたちのこの力は、私も日々感じているものです。大人数で会社をやっていると、あちらこちらでミスやトラブルが発生しますが、授業に行くと、子どもたちの走ってくる姿一発でストレスは飛び、心の歪みが矯正されます。何げない彼らの仕草や言葉は可愛くて可愛くて仕方なく、全身が良きもので充填されていくのを感じます。
 
 さて、音の森のことです。「日本の音楽教育を変えたいんです」と、アルバイト講師時代の笹森が話しかけてきたのが4年前。大口を叩く若者は数知れず見てきましたが、ピンとくるものはあって、課題を提示(泥臭い教室運営で母たちを学ぶこと、それを継続すること、オリジナル教材を作り上げることなど)しました。すると、彼は寝食を忘れるほどにひたすらに邁進し続け、昨年の4月に遂に教室を開いたのです。ここまでの集中力の持続ぶり、創造物の水準の高さ、オリジナリティの高さを見る限り、彼らは、きっと夢を実現するでしょう。

ところで、花まる全体で言うと、彼らの輝きは星座の一つにすぎません。まだまだ花まるグループというと私が扱われますが、算数でも国語でも社会でも理科でも野外体験でも、次代の教育を支えるであろう個性の強い4番バッターだらけの様相で、それぞれの分野について私が全くかなわない実力と魅力を備えた若者が大勢います。
 先日、あるインタビューで、花まる学習会は、何故こんなに成長を遂げることができたと思いますか、と聞かれました。私は、いつものように「出会いに恵まれたからです」と答えました。
 黎明期、きっと怪しげに取られたであろう電話営業で、開催を決めてくださった幼稚園の園長先生。なぜそこまでやってくださるのかというくらい助けてくださったお母さんたち…。それだけではなく、働いてくれる仲間たちとの出会い。個人商店に過ぎなかった小規模塾時代に、組織化と改革断行のために神様が送ってくれたのではないかとすら感じた、最初の数名の社員たち。会社としてここが弱いんだよなと感じていると、それを補うように次々に登場する才能溢れる若者たち。自らの力を超えたところで、誰かに応援してもらっている気持ちがずっとしていて、冗談ではなく「死んだ天草の祖父が守ってくれているような気がする」などと答えたこともあります。
 
 しかし、今回のインタビュー中に、ふと「それだけではない!」とひらめきました。実は、当たりくじも外れくじも、車の往来のように誰の目の前にも平等に行き過ぎている。違うのは、その中からチャンスを「つかむ力」なのではないかという思いです。「この人だ!」とそもそも感じることができるか(感性)。感じたときに踏み込んで近づくことができるか(行動力)。近づいたら魅了して仲間に引き込むことができるか(コミュニケーション力・魅力)。
 それぞれの段階に大きなテーマが横たわっていますが、特に第一の「感性」=「それが良いと感じる力=メキキの力」の重要さが、頭の中で見えたのです。直観力でもあり、瞬間に判断する力。どう育てるかと言えば、大自然の豊かさ美しさに触れ、たくさんの良い本・音楽・芸術に触れ、魅力的な人たちと触れ合う中で培われる能力なのでしょう。
 それは一方が他方を認めるというよりも、お互いを感じ合う力でもあります。例えば私は某ミュージシャンに非常に高いレベルの感動をし、思春期以降での人生の最も大きな支えになったという経験をしています。そして、たまに、そのミュージシャンの奥の深さと価値を本当に分かっている人と出会えると、犬がお腹を見せるように、胸襟を開きます。
 つい先日も、ある会合で、えらく良い感じだなという社長さんと遭遇したのですが、話の中で、私の愛するミュージシャンを彼も好きだと分かり喜び合いました。さらに好きなアルバムと好きな曲を確認したときには、初めて会ったオヤジ同士なのに、強く抱き合っていました。ここは本当に自信のあるところで、いまだかつてこの条件をクリアした人で、はずれはいません。というよりむしろ、社会で大活躍している人ばかりです。
 アルバム云々は後付けの話で、今言いたいのは、会った瞬間にピンと来たことが大事だということです。言わば「人間関係における感性」ということになりますが、別の表現をすれば、お互いの芯にある感動のレベルを嗅ぎ取り、響き合う力だと言えそうです。
 たくさんの良き者・良き人に触れさせ、将来本当に素敵な人と出会ったときに、いいなと感じ、いいなと感じてもらえる人に育てたいですね。

花まる学習会代表 高濱正伸