高濱コラム 『一年を振り返る』

『一年を振り返る』2017年1月

今年ももうすぐ終わりです。みなさんにとって、この一年はいかがだったでしょうか。世界的には、英国のEU離脱や米国大統領選などに見られるように大変動が訪れていますが、私にとっても、授業や講演会や雪国スクールやサマースクールなど、幸せを噛みしめる日々である一方、色々と揺さぶられた一年でした。
 春には、熊本地震がありました。居ても立ってもいられず、水や食料やブルーシートを持って駆けつけたり、G1サミットの仲間たちと朝から晩まで連絡し合ったりと、支援したことがもう遠い昔のようにも感じます。ソフト開発の社長さんたちが、現場と配送側を結ぶシステムを突貫で作りあげ、海運会社と陸路運送会社のトップが連携して12本もの大コンテナ一杯の物資を運び、運びきれない分は、最後は私の友人ネットワークを使って、公式の支援の回りきらないところ(家族に寝たきりの老人がいて、避難所にも行けない家庭など)に重点的に配送しました。また一方で、長期的な応援になるようにと、存続が危ぶまれたバスケットボールチームヴォルターズの増資にも参加しました。これを書いている現在、Bリーグの二部で一位ですから、3月には一部昇格のニュースで故郷を盛り上げられるかもしれません。
 7月には、初めてのトライアスロンに参加しました。「頑張りすぎないように」という白戸太朗さんのアドバイスに従い、たんたんと泳ぎ、自転車を漕ぎ、走ったところ、オリンピックディスタンスを何とか3時間24分で完走できました。初参加で緊張のとき、さああと5分でスタートというタイミングで、円陣を組んだメンバーから「高濱さん、ウエットスーツ裏表反対だよ!」と言われ、大急ぎで着替えたのも、私らしい思い出です。
 一方、創立以来の盟友で、佐賀県武雄市に赴任していた西郡文啓が心臓の変調で倒れたのも夏でした。幸い一命は取り止めました。塞翁が馬というのか、これを機に煙草もやめ、前より元気なくらいですし、危機の助け合いで夫婦もより仲良くなれたようです。また、そういう命がけの仕事のおかげで、官民一体の「武雄花まる学園」が、2校でスタートしたのに加え、6年目には市内全11小学校に広がることも決まりました。児童数より多い地元の支援員さんが、花まるタイムの丸つけに協力してくれるなど、地域の熱さに支えられた挑戦が続いています。

秋には、巻頭文で書いた「パートナー」という文章に、今まで経験したことのないリアクションがありました。ネット上で驚くほどシェアされ、今年から私もプロピッカーになった「NewsPicks」でも、たくさんの反応をもらいました。お手紙もたくさんいただきました。その中の一通を一部紹介しましょう。5歳と2歳の姉弟で弟君が重度の脳性マヒだというお母さんです。
「(前略)子育てをしながら毎日毎日『ちゃんと産んであげられなくてごめんなさい』そして将来弟の介護の負担をかけるであろう娘にも『本当にごめんなさい』と謝ってばかりいました。そんな中『パートナー力』という言葉がいろんな悩みの回答でした。そうだ、私も夫も娘も息子がいることにより、笑顔が増え思いやる気持ちが芽生え幸せに過ごすことができている。あぁ、息子は生きていていいんだ、一緒に幸せになればいいんだ、と気づくことができました。恥ずかしながら、私には全くない発想でした。そしてやっと、こどもたちに『ごめんなさい』ではなく、『ありがとう』と言えるようになりました。(後略)」
講演会のお母さんたちの感想文などもそうなのですが、こういう真心のこもったお手紙をいただくと、心がポカポカと温かくなります。こんな私でも役に立てたのかなと、嬉しくなります。
 11月には、故郷人吉での講演会が終わり、質問する保護者たちに囲まれているときに、一人の女性が近づいてきました。すぐにわかりました。小学校3年生のときに担任だった中務春美先生です。本に書いたこともありますが、指しゃぶりでおねしょで車酔いで、学校で自分を出せないモジモジ君だった私を、愛で包み変えてくださった恩人です。一問、パズルと言ってよい図形問題を、私だけが解けたテストがあって、その返却のときに「これができたの学年で高濱君だけだったのよ」と一言みんなの前で言ってくれたのでした。その一言で、蛹が羽化するように私は急に自信を持った子に変われたのです。たった一人、この先生と出会っていなかったら、人生は大きく違っていたでしょう。50年ぶり。面白いもので、半世紀ぶりなのに、その顔を見るとしがみつきたいような子ども時代の気持ちが蘇るのでした。しかしそばに行くと、背の高さが今の私の胸くらいしかない実は小さい先生だったのです。あんなに見上げていたのに。「会えてよかったよー。あなたは私の誇りだもん。」と言ってもらえ、ポロリと涙がこぼれました。
 
 他にも実に多くのピンチや歓喜の瞬間がありましたが、濃密な一年でした。そして、全く無意識でしたが、こうやって印象深かったことを書き出してみると、「人のつながり」が共通することに気づきます。
まさかの時には、人のつながりがセーフティネットになり、人のつながりを分厚くすることに教育改革のキモがあり、人のつながりのテーマには多くの人が関心を持つ。そして、一度つながった強い絆は、時を経ても古びず、一生の支えにすらなる。
 「パートナー」の一文は象徴的でもありますが、結局、人と人は支え合って1つなんだなということを、思い知らされた一年でした。
 幸い多きつながりに恵まれる、新しき年となりますように。     

花まる学習会代表 高濱正伸