花まる教室長コラム 『命名:ナスムシ』

『命名:ナスムシ』2017年1月

好奇心いっぱいで、話すのが大好きな子どもたち。彼らの中には様々な世界があるようで、今日も教室では元気いっぱいに不思議な言葉を話してくれます。

先日行った年中さんの外遊びでは、様々な生き物を目にすることができました。葉についたイモムシ、花にやってくるチョウ、ぞろぞろと行列を作るアリ。草も青々と茂り、前回見に行ったときよりも背丈が伸びていて、まさに夏目前、といった様子です。そんな中、ある女の子が突然立ち止まり、「あ!虫!」と声をあげました。別の男の子もその虫を見つけたのか「いた!」と続けて声があがります。何がいたのか気になって子どもたちの指さす先を見てみると、青いような、紫色のような光沢のある、1㎝にも満たない小さな甲虫がいました。よく見つけたなぁ、と思いつつ、綺麗な虫だねと告げると、男の子はにっこり笑顔を浮かべてその虫の名前を「ナスムシ!」と教えてくれました。そして得意げに続けます。
「だってナスみたいだから!」と。

お気づきかとは思いますが、この『ナスムシ』には別の立派な正しい名前があります。しかし、今回はあえてその名前を告げることはしませんでした。彼が勝手につけた『あだ名』は、本来は彼の世界の中での呼び方でしかなかったのです。しかし、周り子の誰もが、「そうなんだ、ナスムシって言うんだ!」と受け入れたのでした。それぐらい、彼の言う「ナスムシ」は、その虫の見た目をよく表した言葉だったのです。彼だけの世界と他の子の世界がつながった瞬間だったのでしょう。みんなで、「ナスムシ~」と呼びかける中、男の子はどこか誇らしげな表情を浮かべていました。

大人になると「これはこういうものだ」で終わってしまうことが増えてきます。しかし、子どもたちは「こうじゃないかな」「こうかもしれない」と、知らない部分を想像力で埋めるために自分の中にある言葉で表そうとします。「~みたい」という表現になることもあるでしょう。これだ、と自分が納得するぴったりな言葉が見つかった時、そしてそれが他の人に認められた時、はじめてその子の中だけにあった小さな世界と外の世界とがつながるのだと思います。

つたなくとも、子どもたちは絶えず自分の世界と外の世界をつなげるチャンスを狙っています。特に大好きな家族や友達の世界とつながる瞬間は、子どもたちにとって最高の学びの場になるでしょう。ご自宅で、何かを一生懸命話し始めたら、たとえよくわからない部分があったとしても、うんうん、と頷きながら聞いてあげてください。そうするとその子はうれしくなって、もっとわかってもらおうと一生懸命に自分で考えて話すようになります。この時、「こういうことかな」と言い換えを通じて新しい言葉を伝えてあげるも良いですね。言葉を知ることで広がる世界もたくさんあります。でも、それは教科書や机の上だけで行うものではないのです。

自分の言葉を持っているなと感じる子のお母様とお話していると、「~だったんだね」と本人の言葉をもう一度繰り返していたり、「なるほど!」と言い出した本人の前で面白がったりしているなと思うことがあります。そうやって子どもが言い出したことを肯定してあげるだけで、本人は安心して次の言葉を探し始められます。
 もちろん、ちょっと聞いてあげられないな、と感じた時や、どうしても言いたいことを聞きとってあげられないなどあれば、教室で話しておいでと送りだしてくださってもかまいません。こちらも日々全力で、子どもたちの世界を広げていく学びの場を作っていきます。

ちなみにナスムシを命名した男の子は、教室に帰ってきてからのお絵かきで、立派な「ナスムシ」を描いてくれました。そしてその下に添えられた、いびつな形の「なすむし」の文字。普段なら頑なに文字を書こうとしなかった彼は、「『な』ってどう書くの?」と自分からテーブルの先生に聞きながら一生懸命に文字を書いていたのです。自分の言葉を認めてもらった高揚感から生まれた、やりたい、書きたい!というエネルギーは、苦手意識すら克服してしまったのでした。

さて、言葉を知れば知るほど、今度は言葉同士のつながりに楽しさを見つけていくことができるようになります。それこそが、高学年からの学びの醍醐味です。その楽しさがわかるようになるころには、様々な言葉を自分の世界のなかに抱いています。あとは、それをどう外に表現していくか、が勝負どころでしょうか。
 勉強という形だけではなく、日々の生活の中でも子どもたちは自分の世界を彩る言葉を手に入れていきます。それは「自分を理解してもらうためのもの」にもなり、いつか誰かに届く「世界をつなぐもの」になります。たくさんの世界とつながりながら、日々を楽しめる大人に育ってほしいと思います。

川幡 智佳