松島コラム 『受験生ファースト』

『受験生ファースト』 2019年3月

 2月1日は東京、神奈川の私立中学入試の初日です。受験生はもちろん、私たち塾講師にとっても特別な日です。入試会場で子どもたちを出迎える、いわゆる入試応援というものを30年間、当たり前のようにやってきました。しかし、「そもそも、これは何のためにやっているのか」を問いたい場面に遭遇することがあります。入試応援は、受験生を勇気づけるためのものだと思っています。入試会場で受験生と話せる時間はわずかです。塾で苦楽をともにしてきたからこそ、少しの時間でも伝えたい、伝えられる言葉があります。ところが塾の中には、講師が列になって塾生をズラリと取り囲み、講師側から握手やハイタッチを求めている光景を見かけます。会ったこともない、話したこともない先生が大半でも、通っている塾の激励イベントだからと一様にそこを通過していく受験生を見ていると、大人の事情で動かされているように見えてしまいます。私も以前はその中にいたことがあります。確かにそうしたことで緊張がほぐれる子もいるでしょう。しかし、その様子はほかの受験生にはどう映っているのか、迷惑に感じている受験生もいるのではないかと思うのです。ある大手塾で受験した子どもに聞くと、「整理番号みたいなものを渡されて行った先にいた先生は、まったく知らない先生でした。先生たちも仕事だから仕方ないんだろうなと思っていましたが、逆に緊張してしまった友達もいたみたいです」と冷静に振り返ってくれました。ある個人塾の先生は、「大手塾の応援に圧倒されないために応援に行くようなものですよ。でも、それっておかしな話ですよね」とおっしゃっていました。
 同業者として塾の事情もわかります。全員の受験生にそれぞれの担当の先生が応援に駆けつけるのが理想ですが、数百校の入試が同時に行われる中で、それは現実的には不可能です。FCや道場でも、すべての受験生の入試会場に、担当の先生が応援に行くことはできません。その代わりに、校舎ごとにともに勉強してきた仲間と先生方で入試壮行会を開いたり、入試前日に一人ひとりと固い握手や激励を行ったりしています。入試期間中も塾の自学室に来て勉強してもらったり、不安に感じている保護者の方と毎日やりとりをしたりしています。
 2月1日の夕方、ある私学の校長先生から私のSNSにコメントをいただきました。
 「今朝、そちらの教室から応援に来られていました。低学年のときの教え子だったようで、とても受験生との間にいい空気が流れていました。ありがとうございました!」
 花まる学習会からFCに進んだ教え子のために、当時の花まるの教室長が応援に来てくれた様子を見ていてくださったようです。受験生や保護者、塾の先生たちでごった返す中でも、そこには本当にあたたかい空気が流れていたのだと思います。これも全員の受験生にできることではありませんが、数年前から「花まるグループらしい入試応援をしよう」ということで始まった一つの形です。
 入試会場ではいろいろなことが起きています。狭い会場で受験生を追いかけるテレビ局のカメラや塾の撮影部隊、塾どうしの陣取り合戦、合格後の塾の勧誘チラシを配る人たち。もちろん、どこでもそういう光景が見られるわけではありませんが、2月1日の特定の学校は少し異様な雰囲気に包まれています。
 「だれのための入試応援なのか」と考えたとき、入試期間中だけは塾どうしもノーサイドであってほしいと思います。受験生は緊張するのが当たり前です。保護者も不安になります。しかし、だんだんと覚悟を決め、心を落ち着けていく過程も含めて受験です。あまり余計なことはせず、静かに見守ってあげる状況をつくってあげることが、私たちが最後にできる応援の形ではないかと思うのです。これについては、業界団体などへのガイドライン作成の提案などが動き出すかもしれません。これからも「受験生ファースト」であるために、私たちとしてできることは何かを考え続けてまいります。
 高校受験生もがんばっています。入試当日は周りに気を取られず、最後まで集中して悔いのない受験をしてきてください。笑顔で校舎にやってくる君たちを待っています。

スクールFC代表 松島伸浩