松島コラム 『思春期のやる気』

『思春期のやる気』 2021年4月

 「うちの子、いつになったらやる気になるんでしょう」
明確な答えが返ってこないとわかっていても、聞いてみたくなるのが親心です。
 もともとやる気がない子はいないのです。幼児のころはいろいろなことに好奇心旺盛だったのではないでしょうか。それが成長とともに外からは見えにくくなるのがやる気です。その中でも自分に自信が持てない子ほどやる気がないように見えます。
 「やってもどうせできない」「もともと頭が悪いから」「今からやっても無駄」
もし、子ども自身がこんなふうに思っていたとしたら、やる気にならないのも頷けます。それが大人からの一言、特に親からの言葉が原因の場合もあるので、気をつけなければなりません。大人からすれば、何気なく言ったことでも、子どもにとっては本気と冗談の区別がつかず、言葉通りに受け止めてしまうことがあります。一番近くにいる大人である親が信用してくれていないと思ったら、安心できる場であるはずの家の中でも気持ちが落ち着きません。
 小学校高学年以上になると、子どもは家族とは違う外の世界に関心が広がっていきます。自然に親から自立しようとする時期が思春期です。周りから指図されることを嫌い、自分で決めたいという意思が芽生えてきます。しかし未熟で非力な現実に直面し、身体の変化も相まって、様々なことに悩むようになります。その反面、「親には頼りたくない」という自立のプログラムが働き、反抗的な態度をとるようになります。そして、「親は私のことを何もわかってくれない。信用できるのは友達だけ」などと思い込むようになります。親も理由がはっきりしない子どもの態度に苛立ちます。反抗期が成長の過程だと分かっていても、言わなくてもよいことを言ってしまい、あとで後悔するようなことが日常的に繰り返されます。
 野生の動物の多くは、ある時期になるとあえてわが子と離れるように行動します。自然界で生き延びるためには、自分が食べるものは自分で手に入れる。そのためには、自立させなければならない。親にはそうした実行すべき子育てのプログラムが備わっています。しかし人間の親は、様々な理由で子離れできず、わが子の自立を阻んでしまうことがあります。
 自立させるということは、その子のありのままの成長を認めることです。同じ年齢でも成熟の度合いは異なるのですから、その子なりの成長を認めてあげることが大切です。一人ではできないことでも、時間をかけてできるようになるまで待ってあげる。そうした中で自分の力でできるようになったとき、子どもは自信を持てるようになります。ところが、人から言われたことを無理してやっているうちは、自分事として捉えられないので、たとえうまくいっても達成感が乏しいのです。大人でも仕方なくやらされている仕事は、自分で試行錯誤しながらやり遂げたことに比べて、心の底から楽しいとは感じにくいのではないでしょうか。
 この心の底から楽しいと感じる経験こそが、次も自分でやってみたいというモチベーションにつながっていきます。内発的動機とも言いますが、それこそが本物のやる気を生み出す原動力になるのです。
 しかし、そこには一つ気をつけなければならないことがあります。それは失敗したときの大人の関わり方です。
 自らの意思で始めたことであれば失敗したときでも、「自分ではこう考えたのにどうしてうまくいかなかったんだろう」と原因を考え改善しようとします。ところがそこに「ほらみなさい。言ったようにやらないからうまくいかなかったのよ」というような結果だけを評価する対応をしてしまうと、心が冷めてしまい、意欲もなくなってしまいます。失敗は成長には欠かせないプロセスです。大人になればなおさら失敗の大切さをわかっているはずですが、わが子のことになると、「失敗してほしくない」という気持ちが先行し、うまくできる方法に目が向きがちです。しかし失敗を乗り越えて達成できたときほど、大きな自信につながります。だからこそ、多少の失敗や挫折は必要なことだと鷹揚に見守ることが、自立を促し、やる気を育むことにつながるのです。頭では理解できるけど実践するのはなかなか難しいことでもあります。その点では受験は親も一緒に成長できる機会だと言えます。

スクールFC代表 松島伸浩