花まる教室長コラム 『考えることはつまずくこと』竹谷和

『考えることはつまずくこと』2021年5月

ある日の1~3年生クラスでのことです。私が思考力教材「なぞぺー」で、平面図形問題の解説をしていました。
「同じ大きさ、同じ形で敷きつめるんだよ」という主旨を伝えてからこう言いました。「2~3年生になると、こんなふうにレベルアップします。おおもとの形すら与えられていません。わかっているのはいくつ入るかだけ。」

その瞬間、返ってきたのは「ぃよっしゃあ~!!」という2年生の声。見ると、その発言をした子ばかりでなく、周りの子も「そうこなくっちゃ!」というキラッとした目をこちらに向けています。そう、なぞぺーで養いたいのは、この“考えること自体へのポジティブさ”なのです。
なぞぺーの目的は、「子ども自らがわかった!と思える成功体験=わかっちゃった体験を積むことで、自ら取り組む主体性、意欲を育てる」これに尽きます。意欲が養われてこそ、様々な分野の問題に継続して触れ、思考のセンスを磨いていくことができます。

知識が十分になくても意欲があれば、入試問題も考えられるかもしれません。これは低学年でも楽しめそうだぞ!と思うものがありました。
2018年度の麻布中学校の算数です。

2つの記号○、×を並べてできる列のうち、次の条件にあてはまるものを考えます。
(条件)○が3つ以上連続して並ぶことはない。
例えば、○○×○○はこの条件に当てはまりますが、○×○○○××は条件にあてはまりません。

問1)○、×を合わせて14個並べるとき、×の個数が最も少なくなる列を1つ書きなさい。
問2)○、×を合わせて13個並べるとき、×の数が最も少なくなる列は全部で何通り考えられますか。
問3)○、×を合わせて12個並べるとき、×の個数が最も少なくなる列は全部で何通り考えられますか。

問3は場合分けが必要な問題です(花まるでは場合分けという言葉は4年生以降に発展版Sなぞぺーで学びます。しかし、実は低学年なぞぺーでもそういった問題を扱っています)。ただ問1や問2は、手を動かして書きだすことを通じて、ある“決まり”を見いだせればあっという間に解けます。

問1)○○×○○×○○×○○×○○
問2)問1を通じて、「3個に1個は必ず×がある」ということに気づけたでしょうか。今度は13個ですから、×は必ず4個あります。
○○×○○×○○×○○×○
右端にある「○」は、他の4つの「○○」と入れ替え可能です。したがって答えは5通りです。

大事なことなので再度書きますが、「できるかどうか」ではなく「楽しめるか」そして「つまずきすら含めておもしろがれるか」これが、なぞぺーなどの思考力問題を通じて最終的に体現したい学習者像です。
「考える」ということには、実は「つまずき」が織り込まれています。「あれ?」「おや?」「どういうこと?」「何が問われている?」「うーんここまではわかる」…つまずきがなければ、考えるということ自体が成立しません。
考えた結果→正解になった。そんなことが常に起こるのは「答えとセットになってあらかじめ用意されている問題」においてだけです。社会に出たらプロセスだらけ。答えは自ら定義し、検討修正し、時に周囲とすり合わせていくものです。だからこそ、正解不正解ではない、考える=つまずく過程それ自体に価値があるんだ、おもしろいんだと体感した経験や回数を、たっぷり積ませ、認めたいと考えています。
子どもたちの、考えることに没頭している表情が、私は大好きです。「わかっちゃった!」の前に「わかった」の瞬間があり、それは笑顔ではなく、惚(ほう)けたような表情なんですよ。
さあ今日も、たくさんの「わかっちゃった!」を生み出します。

花まる学習会 竹谷和