松島コラム 『視野をひろげる』

『視野をひろげる』 2023年1月

 久しぶりに行動制限がない年末年始となりましたが、みなさまは新しい年をどのように迎えられたのでしょうか。受験生はいよいよ入試本番です。納得のいくまで挑戦してください。幸せな受験が実現できるよう最後まで応援いたします。
 コロナの感染が拡大した当初、景気の後退や受験環境の悪化、一都三県の小学6年生の減少から、受験人気にも陰りが出るのではないかと予想する教育関係者も少なくありませんでした。しかし2021年以降も受験者数は減ることはなく、その人気を表すように世の中には中学受験に関する情報があふれています。
 そうした情報のなかには、宣伝を目的に意図的に作られたもの、特殊な事例であり多くの受験生や保護者には当てはまらないもの、決して間違ってはいないが断言できないものなど、鵜呑みにすると危険な内容も含まれています。書籍や雑誌、セミナーのタイトルには奇抜な表現で目を引くものもありますが、中身をみると「ケースバイケースです」という結論だったりします。私自身も取材などを受ける立場ですので、むやみにあおったり決めつけたりせず、事実に基づいた客観的なお話ができるよう心がけています。
 次のような相談を雑誌でみかけることがあります。
 「中学受験を考えています。趣味程度ではなく本格的に習い事に打ち込んでいる場合、塾通いが忙しくなるなか、高学年からはどのように対処すればよいのでしょう。塾によっては、習い事をやめなさいと言われるようです。習い事を続けさせる場合、中学受験はあきらめて高校受験まで待ったほうがよいのでしょうか。」
 これに対して「両立は難しい」「習い事はやめるべき」「高校受験を検討」と回答する専門家が意外に多いのですが、相談者の気持ちに寄り添えていない言い方や断定的な物言いには疑問を持ちます。
 以前、「中高の6年間、思う存分野球をやらせたいので中学受験をしたい」というご家庭がありました。塾に通いながら6年生の夏の大会までは続けたいというのです。実際に塾に入ってからは、土日は試合、平日も夜の練習があるのでいつも宿題は半分くらいしか終わらず、夏休みも合宿や遠征で講習会にはなかなか参加できない状況でした。志望校はかなりの難関校で、6年生の夏時点での偏差値は10近く足りませんでした。しかし、周りの子よりも時間がないことから、授業中はとても集中していましたし、宿題も全部はできなくても一つひとつはしっかりと理解している様子がノートからうかがえました。救いだったのは、親子とも宿題が終わらないことや成績が振るわないことをあまり気にせず、「できることだけをやろう」というスタンスを崩さなかったことです。時間が足りないことはわかっていたので、ある意味覚悟はできていたのでしょう。
 夏休みの大会が終わってからは、「これまでの分までがんばるぞ」とばかりにさらに集中力を高めて授業に臨んでいました。思う存分勉強ができることを楽しんでいるようにも見えました。その後、成績も急上昇。見事に第一志望校合格をつかみました。
 本格的なスポーツや習い事をやりながら受験するには、それ相応の覚悟が必要です。もちろん高校受験を選択することを考える場合もあります。しかし、本人が挑戦したい、親が挑戦させたいという気持ちがあるのであれば、そういう条件のなかでできる受験を考えるのが私たちの役割です。塾の方針として習い事を禁止しているところは少ないと思います。「中学受験と習い事は両立できない」というのは、多くはその先生の個人的な意見でしかありません。そういうときは、わが家なりの受験のやり方を一緒に考えてくれる先生を探せばいいのです。100人いれば100通りの受験があるのです。
 新年度が始まります。巷にあふれる情報に惑わされず、視野をひろげて、わが子にあった受験のやり方をともに考えていきましょう。
 最後にお知らせです。2月19日(日)に小学館主催で「大人気中学受験マンガ『二月の勝者』に学ぶ受験生の親の関わり方 」というオンラインイベントを行います。まさに目を引くようなタイトルですが、教育ジャーナリストのおおたとしまささんと、本質的かつフラットにお話ししたいと考えています。ご興味のある方はぜひお越しください。
 本年もよろしくお願いいたします。

スクールFC代表 松島伸浩